生産性というと日本人は、工場の生産性向上策を思い浮かべる。1時間に100個作っていた部品を110個にすれば生産性が10%上がるという製造業の考え方だ。部品の価格はまず上がらないから、生産性を上げて利益を確保する。もちろん同じ1時間だから従業員の給与は変わらない。場合によっては、賃金の安い非正規労働者に入れ替えて、コストを下げる。それこそが生産性の向上策だと信じてきた。
だが、サービス産業の「生産性」は本来まったく違う。ところが日本では長年、製造業と同じ発想でサービス産業の「生産性」が語られてきた。つまり1時間にこなせる顧客の数を増やすにはどうするかばかりが考えられてきたのだ。1時間でこなせる顧客の数を増やし「回転数」を上げる、あるいは接客する従業員の数を減らして1人が扱う顧客の数を増やすことに躍起になってきた。そこに従業員の給与を増やしていくという視点は生まれない。
本来、サービス産業で付加価値を増やす方法は「値段を上げる」ことだ。ところがデフレ経済の中で、価格を下げることが優先された。ようやくデフレから脱却しかけている現在、本来は価格を上げることが重要なのだが、値上げすれば客が逃げるのではないかと不安で、値上げできない。
だが、もはやそんな事は言っていられない時代になった。きっかけは人手不足だ。サービス産業は圧倒的に人手が足らない。しかも最低賃金は毎年上がっており、給与も徐々に上昇してきた。サービス産業は会社を変えても共通するスキルが多いので、人材の流動性が高い。つまり転職する人が多いのだ。給与が安い店には見切りを付け、少しでも高いところに移るという行動が容易にできる。
つまり、人材を確保するには賃金を毎年上げなければならない。少子化が続く中で人手不足は今後、本格化するので、この傾向はしばらく続く。つまり、給与を上げるためには価格を上げざるを得ないのだ。
ただし、例えば飲食店を例に考えると、どんな店でも価格を上げられるわけではない。「良いもの」「価格に見合ったもの」を提供している店に限られる。そうした店なら値上げしても客は離れない。つまり、「良いものをより安く売る」ことでライバル店に勝つ時代から、「良いものを適正価格で売る」時代になったのだ。提供するモノやサービスで勝負する時代ということである。
一方で、価格で勝負するところも消費者の支持を得続けるだろう。だが、人件費を下げることは困難だから、どんどん機械化やシステム化を進めていくことになる。牛丼や立食い蕎麦(そば)を食べる人たちは、味と価格が第一で、店員の高いサービスを求めているわけではない。今は急速に賃金の安い外国人労働者に店員が置き換わっているが、早晩、店員はロボットになるのではないか。自動販売機のように牛丼がポンと出てくるという仕組みになるだろう。
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