グレタさんが振りまく「終末論ムーブメント」――“破滅の未来”はなぜ人々を魅了するのか“環境少女”が世界で受けた真相(2/4 ページ)

» 2020年01月15日 08時00分 公開
[真鍋厚ITmedia]

温暖化こそ最も現実味のある「世界の終わり」

 ハリウッドのパニック映画では、来るべき巨大災害、破滅的事象を前に、バラバラだった家族が(一時的にでも)和解し、同じ目的に向かって団結するのが常道となっています。ピンチはチャンスというわけです。

photo 環境活動家のグレタ・トゥーンベリ氏(19年12月、スペイン・マドリードで開催のCOP25にて。ロイター提供)

 トゥーンベリ家の場合は、長女が発した「地球温暖化の危機」に両親らが蒙(もう)を啓(ひら)かれ、一家に浸透していく構図になっています。良い見方をすれば、「大きな危機」を前に家族同士のいざこざなどの「小さな危機」が脇に押しやられ、物事の関心が大局的な舞台へと移ることであり、非日常性が家族の絆を強めます。悪い見方をすれば、「内部の問題」に「外部の問題」を持ち出すことで、「棚上げ」もしくは「先送り」することであり、家族を保全するためには「大きな危機」が存在し続ける必要があります。

 思えば、冷戦期を通じて最も可能性のある「世界の終わり」は核戦争でした。

photo 自身を宇宙人と思い込んだ家族を主人公に据えた三島由紀夫の長編小説『美しい星』(新潮文庫)

 1960年代初頭に発表された三島由紀夫の長編小説『美しい星』(新潮文庫)の主人公である大杉家の人々は、いわば「大きな危機」の申し子です。自分たちを宇宙人と信じ、人類のために核戦争を防ごうと腐心します。宇宙人というアイデンティティーが、個人の集まりにすぎない家族に、辛うじて奇跡的な調和をもたらす様子が描かれます。

 つまり、周辺に追いやられた立場の人間を英雄的な役割に押し上げ、社会的な承認とともに自尊感情の回復が得られる側面があるのです。大杉家が当時の米ソ首脳に手紙を送るエピソードなどが象徴的です。

 グレタ・トゥーンベリ氏が「気候危機って、未来を修復できない全面核戦争みたいなもの」(前掲書)と断言した通り、今や最も現実味のある「世界の終わり」は「地球温暖化の危機」です。

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