クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

日本のEVの未来を考える(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2020年01月20日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

航続距離は長いほどいいのか?

 今度はユーザー側のニーズを見てみよう。昨今、EVの課題とされるのは航続距離である。どのメーカーも「満充電でこんなに走れます」と訴求している。けれども、冷静になって考えてほしい。年間1万キロ走るユーザーにとって、日割りの平均走行距離は27.4キロに過ぎない。ちなみに初代プリウスPHVのEV走行距離は26.4キロ。バッテリーの容量はわずか4.4kWhに過ぎなかった。

 2020年現在、比較的普及価格(といっても結局300万円台中盤からだが)のEVのバッテリー容量は40kWh程度。これがプレミアムEVになれば60kWhあたりが最低線、大きなものでは100kWhというものもある。これらのクルマの中には最大航続距離で600キロ以上のものもある。

初代リーフからのバッテリー容量の拡大

 しかし、エアコンやヒーターをガンガン使って電費が落ちたところで、走行距離が1日平均の27.4キロなら、バッテリーは10kWhもあればこと足りる。多少日によるでこぼこがあったとしても、20kWhもあれば100キロ近く走ることができる。条件が悪くとも7掛けはクリアするだろう。つまりこれが日々の使用を前提とした場合の最低必要電力だといえる。

 別角度から検証しても、この20kWhというのは、そこそこのマジックナンバーだ。毎日EVをアシに使っている人たちが、実際の使用電力を測定したところ、やはり20kWhあれば十分だという結論に達している。これは筆者が言っているのではない。実際に日々EVを使っているEV関連の専門家が、生活の実体験として言っているのだ。都内在住、都内勤務の彼らと地方の状況はまた違うだろうが、これもひとつの実例である。

 バッテリーは充放電回数に応じて劣化する特徴があるが、急速充電するとより劣化が早まる。だからEVの正しい使い方は、充電器を備えた自宅で、毎日夜間に通常速度充電を行い、この航続距離以内で使うことだ。これならバッテリーの負担も少なく、電気代も安い。どちらでも不利な外出先での急速充電器は、背に腹は代えられない場面で、仕方なく使うものなのだ。

 しかし、お盆や正月の帰省などで、長距離を走らなければならない場面もある。こういうときに電欠するのが怖いという心理に後押しされて、今EVには航続距離が求められている。しかしそもそも出先で充電しなければならないケースはそれほど多くはない。使い方にもよるが、多くても月に1、2度。少なければ年に1、2度というところだろう。いってみれば、年に数度やってくる祖父母を乗せるために3列シートのミニバンを買って、毎日1人で乗っているようなものである。

 バッテリーは高価で重たい。こういう漠然とした不安にさいなまれて、高いイニシャルコストを負担したり、重たいバッテリーを無駄に運ぶエネルギーを消費するのは馬鹿馬鹿しい。もしものときの保険コストに日常が圧迫されている状態だ。例外的なケースさえ見切ってしまえば、バッテリーは大容量化する必要がない。まずはこの本質を理解しなければならない。本質論では、レアなケースに備えてバッテリーの大容量化を図るのは、リスクマネジメントとして正しくないのだ。理詰めではそうなる。

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