元大阪府知事・元大阪市長、橋下徹――。彼の名前を聞くと、「政治の世界で仕事をしてきた人間」という印象が強いかもしれない。だが、もともと橋下は有能な弁護士だった。橋下自身も、政治家として力を発揮してきた土台には「民間の世界で身につけてきた仕事の基本がある」と語っている。
弁護士であるにもかかわらずスーツを着ず、茶髪、Gパン、革ジャンといった個性的な出でたちでマスメディアに出演し、その後は政治家として巨大な役所組織を率いるリーダーとなった。政治家として時には周囲と激しく衝突し、「異端視」されながらも行政改革に奮闘したことは誰もが認めるところだろう。
行政改革とは、言い換えれば「組織改革」だ。大阪府庁、大阪市庁という組織を変革し、それまで停滞の一途をたどっていた大阪を、圧倒的な実行力で立て直してきた。「適正な組織づくり」という点においては、公的組織と民間組織の間で大きな違いはない。どちらも、組織の意欲や機能性を高め、その組織の使命を実行し、世の中の役に立てていく。つまり、「定めた目標・戦略を実行するために適正な組織をつくる」点では変わらない。
この連載では新著『異端のすすめ 強みを武器にする生き方』(SB新書)の中から巨大組織を率いたリーダー、橋下徹の仕事や働き方についての考え方をお届けしていく。第3回目は、弁護士時代から数々の難しい交渉を成立させてきた橋下に、「ケンカに負けない交渉術」について語ってもらった。
こちらが議論の作法を守ったとしても、相手が議論の作法を守らない場合があります。もし相手があなたを侮辱してきたら、いっとき流行(はや)った「倍返し」どころか「100倍返し」くらいの勢いでやり返さなければなりません。この点、やり返すことは、侮辱してきた相手と同じ土俵に降りることになるので、そんな対応よりも、侮辱を軽くあしらう、無視するといった「大人な対応」をしたほうがいいと思えるかもしれません。
確かにここは意見が分かれるところでしょう。しかし僕の人生経験からすれば、やはり「やられたら、やり返す」のほうがいいと思っています。まず、しっかりとやり返すことで、自分が許せないラインをしっかりと示すことになります。それは相手に対しても、またその周囲の人たちに対しても、今後の抑止力になります。
パワハラ、セクハラなども侮辱の一種ですが、「この人を侮辱すると面倒なことになるな」と周囲に思わせるのは、それらから身を守る予防線にもなります。そして相手の侮辱に対して、こちらも100倍返しをすれば、相互の罵詈雑言合戦になり、「これは無益なやり合いだ」という雰囲気が醸成されます。そのときこそがチャンスで、あなたは、その機を捉えてお互いに侮辱を止める提案をするのです。そうすれば、相手の侮辱を抑えて、中身のある議論を始めることができるようになるでしょう。
侮辱ではなく、きちんとした批判を受けた場合に、まるで全人格を否定されたかのように反応する人がいますが、それは賢明なやり方ではありません。侮辱ではない批判・苦言・進言などは、確かに心地いいものではない。「そんなことない!」「うるさい!」と脊髄(せきずい)反射的に反抗したくなるかもしれませんが、実は耳が痛い批判・苦言・進言こそ、正面から向き合うべきです。
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