元大阪府知事・元大阪市長、橋下徹――。彼の名前を聞くと、「政治の世界で仕事をしてきた人間」という印象が強いかもしれない。だが、もともと橋下は有能な弁護士だった。橋下自身も、政治家として力を発揮してきた土台には「民間の世界で身につけてきた仕事の基本がある」と語っている。
弁護士であるにもかかわらずスーツを着ず、茶髪、Gパン、革ジャンといった個性的な出でたちでマスメディアに出演し、その後は政治家として巨大な役所組織を率いるリーダーとなった。政治家として時には周囲と激しく衝突し、「異端視」されながらも行政改革に奮闘したことは誰もが認めるところだろう。
行政改革とは、言い換えれば「組織改革」だ。大阪府庁、大阪市庁という組織を変革し、それまで停滞の一途をたどっていた大阪を、圧倒的な実行力で立て直してきた。「適正な組織づくり」という点においては、公的組織と民間組織の間で大きな違いはない。どちらも、組織の意欲や機能性を高め、その組織の使命を実行し、世の中の役に立てていく。つまり、「定めた目標・戦略を実行するために適正な組織をつくる」点では変わらない。
この連載では新著『異端のすすめ 強みを武器にする生き方』(SB新書)の中から巨大組織を率いたリーダー、橋下徹の仕事や働き方についての考え方をお届けしていく。第4回目は、大阪府知事だった橋下が、「定住人口を増やす」という課題に対して、取った戦略について語ってもらった。
ウリを明確に打ち出す。このやり方は、政治家時代にも大いに生かされました。かつての大阪では、長く「定住人口を増やす」という方向性で府政が行われていました。それを、書籍『異端のすすめ 強みを武器にする生き方』の第7章で触れている「逆張りの発想」で、外から観光客が集まるような「中継都市」にするという方向に転換したわけですが、そこで課題となるのは、いかに外国人観光客を呼び寄せるかです。
集まってもらおう! と口で言うのは簡単ですが、それをどのように実行するかが重要です。口で言うだけなら、それは学者やインテリたちの世界。でも僕は、大阪の特色・魅力、すなわち大阪の商品価値を他地域に抜きん出て打ち出すことを、担当部局に検討・指示しました。
そのとき、担当職員から「京都のように街の景観を整えるべく、看板やネオンに対する規制を強化したらどうか」という案が出てきました。屋外広告物規制条例の強化というのは、役人としては取り組みがいのあることです。街中から派手な看板やネオンを撤去して、落ち着いた風情・雰囲気の街に整えるというと、いかにも観光都市としての環境整備をしている気になりますから。
当時、京都市は全国で最も厳しい屋外広告物規制条例を制定し、看板、ネオンを徹底的に排除していきました。でも僕は「それは京都の話であって、大阪の商品価値を本当に高めることになるのか」を職員に問いました。
京都には平安京以来の歴史的遺産が数多く残っています。街全体が歴史的遺産です。その「古都らしさ」が京都の最大の特色・魅力=商品価値なのだから、景観保護のために看板やネオンを徹底的に排除することは、自らの商品価値を高めることに明らかにつながります。京都市内中心部のファストフード店やコンビニ店の看板の色まで、どぎつい原色は禁止とするほど徹底しています。
実際、京都が外国人観光客の間でずっと人気があるのも、この「古都らしさ」であって、ゆえに、京都市の屋外広告物条例の全国一の強化という戦略は、観光都市・京都にとっては理にかなっています。
しかし、大阪の特色はどうでしょうか。他の都市にはない、大阪だけのウリを打ち出さなくては外国人観光客を呼び込むことはできない。そこで改めて大阪のウリは何かと考えてみれば、答えは明白でした。
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