スパイは社員に紛れている! 三菱電機、ソフトバンクの情報漏洩が人ごとではない理由世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2020年02月13日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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中国、ロシアは何を狙っているのか

 今回のケースを見れば、三菱電機で人材情報が盗まれた背景には、中国政府が力を入れている「中国製造2025」がある。25年までに中国を「世界の工場」から「イノベーションを起こす国」に変えたいという政策だが、今それを目指して中国はテクノロジー分野に強い韓国や台湾、そして日本から人材を獲得すべく、カネをチラつかせるなどして追い込みをかけている。人材情報はのどから手が出るほど欲しい。その情報を手に、人を使ってスパイ工作が行われる可能性がある。

 ロシアのケースもしかり。ロシアは今、ウラジーミル・プーチン大統領が5Gを開発しようとしているが、いくつか技術的なハードルに直面している。すでに5Gで先行している国々の技術的な情報を欲している。それがスパイ活動につながっていると考えられる。

 そうした情報を見れば、常に狙われている日本の企業が、何に気を付けるべきかが見えてくる。少なくとも、誰しも彼らの餌食になる可能性があることを肝に銘じるべきである。

 最後に、こんな怖い話を紹介したい。これは実際に最近あった、ある国のスパイ工作の一端だ。

 一般の社会人として大手企業に就職した人物がいた。この人物は、入社してから何年もかけて会社から社外秘の情報をバレないように抜き出していたという。そして何年かしてから退職し、それらの情報を母国の諜報機関に渡した。そもそもこの人物は、最初から情報を盗むために企業に送り込まれたスパイだった――。

 日本が喰いモノにされている現実を今こそ、自覚すべきなのである。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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