アマゾンを超越し続ける「ザッポス」という存在(4/4 ページ)

» 2020年02月19日 07時55分 公開
[石塚しのぶINSIGHT NOW!]
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アマゾンを超越し続ける、革新的経営の実験場、「ザッポス」

 アマゾンは効率主義の会社である。悪くいえば冷酷な会社でさえある。方針に合わないことにはさっさと見切りをつける。アマゾンに買収された会社の中には、ザッポスほどラッキーでなかった会社もある。たとえば、「ダイパーズ・ドット・コム(Diapers.com)」で知られたクイッツィ(Quidsi)社は、ネットでの紙おむつの販売を巡る熾烈な価格競争の末アマゾンに売却することを余儀なくされ、その後事業閉鎖の憂き目を見た。ザッポスとは違い、クイッツィを独立事業として存続させておく気はアマゾンにはなかったのだろう。

 ザッポスがアマゾンに買収されて(「ザッポスとアマゾンが結婚して」とザッポスは表現する)はや11年。「独立した経営を続ける」という買収時の約束通り、ザッポスは依然として独自路線を行っている。「ザッポス・カルチャー」も健在なように見える。アマゾンが「ザッポス化」したということも、ザッポスが「アマゾン化」したということもない。この11年の間に、ザッポスのトニー・シェイは「ホラクラシー=セルフ・マネジメント」という新しい組織体制を導入し、称賛と同じくらいの批判も受けてきた。「社会的実験」と揶揄(やゆ)されることも多い「セルフ・マネジメント」だが、特に干渉することもなく、その自由な実践を許していることからも、ザッポスに対するアマゾンの尊敬の念は明らかであるように私には思える。

 ネット通販において、「システム=IT」を究極にまで磨き上げることによって、ミスをなくし、顧客がそもそも企業にコンタクトしなければならない理由をなくすというのが、「顧客サービス」に対するアマゾンの初期の哲学であり、アプローチであった。生身の人間の力を最大活用するという、まったくの対極にあるザッポスのアプローチを社内に取り込み、観察および研究するというのが、アマゾンによるザッポス買収の思惑ではなかったかと今となっては思える。そしてその「観察および研究」というのは今でも続いているように思う。アマゾンCEOのジェフ・ベゾスは宇宙旅行の商業化を夢見てブルー・オリジン(Blue Origin)に出資しロケットを飛ばし続けるが、それと同様に、人の力を最大限に解き放つ組織の在り方を実験観察する目的で、「ザッポス」という名のラボに投資をしているようにも思えるのだ。そういった意味では、買収から11年が経った今でも、ザッポスはアマゾンを超越した存在なのである。(石塚 しのぶ)

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