トイレットペーパー買い占めに走る人を“情弱”と笑えない真の理由“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)

» 2020年03月17日 08時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
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「人をバカにする」より正確な情報発信を

 一部ではマスメディアが欠品を報じることで不安を煽っているとして、報道を自粛するよう求める声も出ているが、筆者に言わせれば、(欠品しているという)事実を明らかにすべきではないという激高した意見が出てくること自体がパニックである。

 確かにメディアの報道を見て、不安になり、さらに買いだめする人が増えるというメカニズムが成立することは、ちょっと考えれば分かる。だが、そうだからといってメディアが報道を自粛すべきというのは、かなり危険な考え方である。

 なぜなら、メディアが情報を意図的に選別するということは、何を国民に伝えて、何を伝えるべきではないのかという、国家において極めて重大な問題をメディアという一部企業に委ねることを意味しており、これはまさにメディアに権力を持たせることと同義になる。これではメディアが国民を統制する中国や北朝鮮と何も変わらなくなってしまうだろう。

 先ほど説明したように、トイレットペーパーの生産体制はタイトであり、品薄を防ぐためには、何もない平時から多少のストックを確保しておくことに加え、非常時であっても、買いだめに走らず、いつも通りの買い方を継続するしか方法はない。そのためには、常日頃から正しい情報を共有することが大事であり、ネットはその有益な手段となるはずだ(ネットで激しく情報発信をしている人ほど、既存メディアへの関心が極めて高く、ネットの力を信じていないように見えるのは筆者だけだろうか)。

 重要なのは、多くの人が正しい情報を発信することであり、正しい情報が多ければ、いずれ間違った情報は修正されてくるし、メディアの報道もそれに沿って変わってくる。いつまでも不安を煽る報道を繰り返している番組は、結局は信頼を無くすだけであり、多くの日本人はそれを見極める能力を持っているはずだ。買いだめに走るを人をバカにしたり、オールドメディアの報道をバッシングしているだけでは、建設的な解決策は得られない。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


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