元経産官僚・岸博幸が斬る――リニア反対は「私利私欲」、静岡県を貶める川勝知事の「醜悪パフォーマンス」検証・リニア静岡問題(2/4 ページ)

» 2020年04月09日 08時00分 公開
[河崎貴一ITmedia]

「リニア遅延戦略」は選挙のためか

──静岡県は、なぜ公募までして、国交省の有識者会議の人選にまで口出しをするのでしょうか。

 当初、私は、来年7月に静岡県で知事選があるので、川勝知事が再選に向けて条件闘争をして、JR東海や国から有利な条件やお金を引き出し、知事の成果とするのが目的かな、と思っていたんです。落としどころを、できるだけ静岡県にとって有利なものにしようと。それはそれでどうかと思いますが、百歩譲れば話は分かります。

 ところが、一連の静岡県の対応を見ていると、どんどんゴールポストが遠くなるように動かし続けています。

 国交省の有識者会議もグチャグチャ揉(も)めているから、静岡県が公募で選んだ人物を国が受けるかどうかというトラブルも予想されて、なかなか始められないでしょう。4月の開始は難しいかもしれません。例えば、今年の夏に始まったとしても、専門家会議は一般的に半年から1年かけて検討しますから、そうなれば、結論を出す前に、来年の知事選になってしまいます。

photo 知事定例記者会見(2020年3月24日。「ふじのくにネットテレビ」より)

 ということは、知事選までリニアのトンネル工事を始めさせないように、ものごとを動かさないようにするのが、川勝知事や静岡県の目的なのかなと思ってしまいますよね。

 問題を変え、国の足を引っ張り、JR東海の工事スケジュールをどんどん遅らせて、「自分は静岡県民のために、国と闘っているんだ」というポーズをアピールして、知事選まではリニアの工事を動かしたくないつもりなのでしょうか。

 最初はJR東海と、次は国交省と、仮想敵を次々に作ってケンカをして目立つことが、自分や選挙戦にプラスになると思っていらっしゃるんですかね。

 そうだとしたら、リニア反対は選挙のためのパフォーマンスで、私利私欲でしかありません。

photo 大井川上流から山梨県側に大量の水を放流していることは問題にしない

 もし、リニアのトンネル工事で、県民のために大井川が減水するのを防ぐのが目的なら、大井川上流の田代ダムから、リニア工事で予想される減水量(JR東海の環境評価書では、トンネル工事による減水量は、何の対策も講じない場合、「最大で毎秒2t(トン)」。実際は覆工コンクリートや防水シートなどの対策を施すので2t以下になると思われる)の2.5倍の大井川の水を山梨県の東京電力の発電所に送って、そのまま別の水系に放水させている事実を無視するのは、明らかにおかしい。それなのに、リニア工事の減水だけを、「静岡県民の命の水」と騒ぐ(編注:田代ダムについては「リニアを阻む静岡県が知られたくない「田代ダム」の不都合な真実」を参照されたい)。

 本当に静岡県民のためを思うのなら、田代ダムのことも全部言わなくてはいけない。やっぱり選挙のために、リニアの足を引っ張って、目立ちたいのかなと思ってしまいますね。

photo 蛇行しながら流れる大井川(静岡県島田市の川根温泉)

──川勝知事のリニア対応は、静岡県民のためになっているのでしょうか。

 静岡県内の民放テレビ局の情報番組に出演していると、川勝知事は「静岡県民のために頑張っている」という声と、その反対に「常識から外れていて、おかしいんじゃないか」という声の両方があるようです。

 今は人気の方がまさっているようですが、「静岡の利益を守るために」というようなアプローチで、JR東海や国交省に因縁をつけまくっているのが、(大衆に)受けているのかもしれません。

 ところが、田代ダムの放水量などを無視して、リニアのトンネル工事だけにこだわるやり方を見ていると、私には、川勝知事が人気を博している理由がまったく分からないんです。JR東海は「トンネル湧水は導水路トンネルを使って全て大井川へ流す」と明言していますし。

 かつて、大阪府知事時代の橋下徹さんが、「国はボッタクリバー」だと国にケンカを売りました。橋下さんはきちんと理屈があったし、やり方も正しかったと思います。

 そのときと比べると、川勝知事のやり方は筋も通っていないし、静岡県民のためにもなっていない。環境のためにもなっていない。あまりにも稚拙だと思います。

 リニア中央新幹線の東京・名古屋間の約286キロのうちで、静岡工区は地下トンネルの約8.9キロだけで、同じ南アルプストンネルの山梨工区や長野工区、その他の区間では、大きな環境問題は起きていません。私は、トンネル工事や河川工学の専門家ではありませんが、現代のトンネル工事の技術では恒久的に大量の湧水や減水は起きないと聞いています(編注:「リニアを阻む「水問題」 専門家の指摘で分かった“静岡県のもっともらしいウソ”」を参照されたい)。

photo 静岡県庁

 リニアの工事が始まれば、当然、公共事業で地元にもお金が落ちるわけです。加えて、リニアが通ったあとも、国からの財政措置を受けるやりようもあるわけで、当面、静岡県にプラスの効果もあり得ます。

 その静岡工区を着工させないでいると、今の新型コロナウイルスによる影響で落ち込んだ静岡県内の経済振興策を潰(つぶ)していることにもなる。そのうえリニアの開業を遅らせる結果になれば、日本経済全体の足を引っ張っていることになります。

 このままでは、それらのプラスの効果を全て失わせてしまいかねません。その目的が、自身の選挙戦のためだとしたら、最悪だと思いますね。

 国交省にしても、静岡県とJR東海の仲介役に入ったのに、川勝知事は、鉄道局長や幹部を「器に欠ける」「このような中途半端な理解の人では、この問題について議論する能力が問われる」などとあしざまに言い、今度は有識者会議の委員の人選に口を出して公募をすると言い出しました。

 国交省は、絶対に、内心怒っていますよ。

 私は、「国交省に媚びろ」というつもりはまったくないんですが、正論や正攻法を取らずに、足を引っ張ってばかりいると、しっぺ返しは必ず来ると思いますね。国交省は、道路、鉄道、空港、港湾など、重要なインフラの多くを握っていますから。

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