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コロナ禍を機に考える「定年後の自分」 60歳元社長を襲う孤独感「定年後の男性はひとり」コロナ禍を機に考える「定年後の自分」(2)(1/2 ページ)

» 2020年04月19日 05時00分 公開
[高田明和ITmedia]

 「朝、店頭に並べない現役世代を尻目にマスクを買いだめする老人」

 「本当は在庫を隠しているのだろうと店員に食い下がる高齢男性」

 「列に割り込み、注意した人に暴力を振るう70代男性」……。

 今回のコロナ禍では日本全体が緊張感につつまれるなか、一部の高齢者による地域社会でのモラルが皆無な行動に対し、「暴走老人」などといった批判が生まれ、新たな火種となりそうな状況です。一方で、高齢者がなぜそのような行動に走るのかを、自分の将来の姿に重ね合わせながら考えるきっかけにもなった人は多いのではないでしょうか。

 定年を境に男性は、それまでの会社生活とは異なる環境変化に戸惑い、なかにはうつや認知症を引き起こしたり、病気までとは言わないまでも、怒りっぽくなったり、暴言や奇行が目立つようになったりするケースが見受けられます。それらは介護や認知症並みに地域や家庭での深刻な問題になっているのが現実です。

 そこで大事なのが50代の現役のうちに、定年後のさまざまなことを想定しておき、準備しておくことです。この連載では、『定年を病にしない』(ウェッジ刊)より、医学博士の高田明和氏が、50代のうちに「定年後の自分」に早く向き合う必要性を事例とともにお伝えします。今回は、定年後に地域や家庭で孤立を深めていった男性の事例です。

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会社を離れた自分をいまから想像しておく

 大手銀行の子会社で社長を務めた昭夫(60歳)は定年後、待ちに待った悠々自適の生活に入った。趣味は夜にジャズを聴きながらウイスキーを飲むことだが、ほかにはなかった。たまに近所の喫茶店に1人で行くが、 30 分ほどしか時間がつぶせない。健康のためにジムに通ってみたが、長続きはしなかった。図書館にも立ち寄っていたが、本を読むとすぐに目が疲れるため、最近では足が遠のいている。

 外出先で昭夫が気づいたのは、自分と同世代の男性は皆1人なのに、女性は集団で楽しそうにしていることだった。焦りを感じて、図書館で同世代の男性に声をかけてみようと思ったこともあったが、寂しい人と思われるのがイヤで実行できなかった。

 定年から3カ月、早くも昭夫は会社員時代を懐かしむようになった


 昭夫さんのように、定年前に、会社を離れることが想像できていない人は結構います。そのため待ちに待った悠々自適の生活が、すぐに色あせて時間を持て余す日々に変わり、会社員時代を懐かしむようになってしまうのです。

 昭夫さんの場合、子会社とはいえ社長を務めたので、なおさらと思う人は多いでしょう。ところが、会社員時代に不平不満ばかりいっていた人でも、昭夫さんのような人はめずらしくはないのです。

 ただ昭夫さんの場合、趣味があるので安心です。ウイスキーの飲みすぎには注意しなければなりませんが、趣味があれば、いくらでも楽しい時間を過ごすことはできます。例えば、日中でもインターネットを使えば、好きなジャズのことをいくらでも調べられます。CDショップをのぞいてみるのもいいでしょう。悠々自適の生活が送れるくらい貯金があるので、毎週ジャズ喫茶巡りをしたり、コンサートに行ったりすることもできます。

 そのうち趣味仲間ができ、その様子をブログに書くのも楽しいものです。このように趣味があれば、時間に任せていろいろと広げていくことができます。

 ただし、興味のあることをやってみるのはいいのですが、無理して趣味を増やすのは、やめたほうがいいでしょう。これは趣味がない人にもいえることです。焦ってやみくもにいろいろなことをやってみる人がいますが、不要な出費に終わることは少なくありません。そのうち苦痛になってくるでしょう。

 人間の脳の容量には限りがありますので、余計な情報が入ってくると、脳がそっちのほうに使われてしまいます。こうなると精神的に不安定になることがあります。これでは、何のための趣味か分からなくなってしまいます。

 私は読書やクラシック音楽を聴くのが好きですが、とくに趣味はありません。しかし、興味があることをやってみるだけでも、結構楽しめるものです。しかし、どんなにいいとされていることでも、自分に向かないことはしないようにしています。仕事ではないのですから、気軽に楽しむのが重要なのです。

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