膨らむ経済損失と不満 世界で始まった「コロナ訴訟」世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2020年05月07日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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 また訴訟問題は教育分野にも広がっている。この連載でも取り上げたが(関連記事)、日本では学校が休校になってから、公立学校を中心にまともに教育が行われていない実態がある。テキストなどの課題を与えるだけというのは、教育とは言えない。国外では国家の未来を支えてくれる子供たちへの教育を途切れさせないように努力を続けているが、日本はかなり遅れている。

 訴訟大国の米国では、学校に行けないことで集団訴訟になっている。別々の大学に通う2人の学生が、休校によって本来受けられるはずの教育を受けられないとして、それぞれが通う2校の大学を訴えた。大学側はオンライン授業などを提供しているが、学生らはクラスでの授業を受けるために学費を払っていると主張。さらに教授との対面のやりとりや、学内の施設の使用ができない状態であるとして、何らかの形での学費の返済を求めている。

 オンライン授業を受けるために高い学費を払っているわけじゃないというのが彼らの言い分で、その意見に賛同する学生は増える可能性があるという。

 また、これは訴訟ではないが、ニューヨーク大学では、1万1000人の学生が、学費を一部でも返金するよう求める署名活動を行っている。とにかく、大学も学費に見合った教育をしないなら学費を返すべきだというのである。もっともな意見だ。

 こうした新型コロナにまつわる訴訟問題は、そのうち日本でも起きる可能性がある。特に、私権制限が長引けば長引くほど、人々の不満は高まり、怒りの矛先は海外や日本の政府、自治体、企業、学校などに向くことになる。そうならないためにも、きちんと説明を行い、みんなに理解してもらうしかない。

 安倍首相も、今は外交日程よりも優先すべきことがあるのではないだろうか。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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