トップインタビュー

異例のロングランヒット、中国アニメ『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』の舞台裏に迫る中国アニメ『羅小黒戦記』ヒットの舞台裏(2/4 ページ)

» 2020年05月21日 05時15分 公開
[伊藤誠之介ITmedia]

在日中国人に向けた「テストケース」だった

 まず話を聞いたのは、『羅小黒戦記』の日本配給を行っているチームジョイ株式会社(東京・渋谷)で代表取締役CEOを務める白金(パイジン)氏だ。白金氏は以前、中国中央テレビ(CCTV)のジャーナリストとして東京に赴任し、日本のビジネスについて取材していた。その経験を生かしてその後、日本で映像関係の会社を起業した白金氏は、映像作品の企画や投資を行う一方で、日中文化産業交流協会の代表理事として、日本と中国の映画・テレビの共同製作などにも尽力している。

 白金氏が中国映画の日本配給を行ったのは『羅小黒戦記』が初めてで、しかもかなり実験的な試みだったという。そこには日本の映画業界が見逃していた、新たなマーケットの可能性があった。

phot 『羅小黒戦記』日本配給元チームジョイ代表取締役CEOの白金(パイジン)氏

――『羅小黒戦記』を日本で劇場公開することになった経緯は?

 中国にジョイ・ピクチャーズ(北京卓然影業有限公司)という会社があります。こちらは中国で、民間の映画配給会社の中でトップ5に入る企業です。中国で製作された映画の配給だけでなく、アカデミー賞でも話題になったミュージカル映画の『ラ・ラ・ランド』を中国国内の映画館に配給して、大成功を収めたりしています。

 じつはこのジョイ・ピクチャーズが、劇場版の『羅小黒戦記』に出資しているんです。チームジョイは、そのジョイ・ピクチャーズと私が一緒に作っている法人なので、『羅小黒戦記』とは資本関係があります。そこで、中国での公開と同時に日本でも展開したらどうか、という話を持ってきてくれたんですね。

――『羅小黒戦記』は中国国内で19年9月に劇場公開された後、日本の池袋で9月20日に劇場公開されています。中国映画だけでなく、ハリウッドの大作以外の外国映画が日本で本国とほぼ同時期に公開されるのは、極めて異例なことだと思うのですが、この公開時期の意図は?

 日本には華人華僑(中国からやってきたビジネスマンや留学生)が100万人いるといわれています。今の時代、この人たちはSNSで中国大陸と直接つながっているんです。だから当然、中国国内で公開されて盛り上がっている映画の話題もリアルタイムで入ってきます。しかし日本では公開されていないので、映画を見たくても見ることができません。ネット配信で見ることができるとしても、それだと中国での公開から3カ月後ぐらいになるので、中国にいる人たちとは感動を共有できず、SNSにコメントもできないわけです。

 この100万人の華人華僑を観客として映画に動員できないかと、私はこの3、4年ぐらいずっと考えていました。しかし、実際にどれぐらい動員できるかのデータはありません。そこで『羅小黒戦記』ならちょうど資本関係があるので、この作品でテストマーケティングをやってみようと思ったんです。

 日本での映画配給のノウハウはないので、もしダメだったら中国人だけをターゲットにして、2〜3週間で上映を終わろうと、最初はそう考えていました。

phot 羅小黒戦記の日本公開初日の受付

――では当初、日本人の観客は想定していなかったわけですか?

 この作品なら日本の人たちも好きかもしれない、という勘だけですね。だから、とりあえずの形で日本語字幕をつけたんですよ。もし日本人のお客さんが見に来たときに、日本語の字幕がないとダサいなと思ったので(笑)。

 でもいざ上映を始めると、お客さんの反応が本当に早かったですね。最初の上映では、観客の9割が中国人でした。ところが今は、観客のほとんどが日本の方です。本当に面白い作品であれば、日本のお客さんはちゃんと動いてくれることが分かりました。

――在日中国人をメインターゲットにした映画を公開したことは、過去にあったのでしょうか?

 今回のように、中国とほぼ同時に劇場公開されたものはないですね。日本ではハリウッド映画であっても、公開が数カ月〜半年ぐらい遅れるのが一般的です。日本語字幕の作成や映倫(映画倫理機構)の手続きがありますし、吹替版を作るとなると、さらに時間がかかりますから。

 しかも中国映画が日本に輸入されるには、通常は中国での公開が終わった後に、カンヌやベルリンといった海外向けのフィルムマーケットに出品されて、交渉が始まります。ですから、日本などで中国と同時期に劇場公開を行うのは、物理的に難しいところがあります。それに対して私たちは同じ映画人として、中国で現在製作されている映画や、中国で公開間近の作品について、事前に話を持って行って交渉することができるのです。

phot 羅小黒戦記 日本公開初日の盛況

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.