『鋼の錬金術師』監督が語る、中国アニメ『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』ロングランヒットの訳中国アニメ『羅小黒戦記』ヒットの舞台裏【中編】(3/5 ページ)

» 2020年05月22日 05時00分 公開
[伊藤誠之介ITmedia]
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美術学校を卒業したばかりの世代が、手描きアニメを支えている

――中国ではここ数年、アニメ映画がたくさん作られて中国国内でヒットしていますが、その大半は3DCGアニメです。

 3DCGのアニメは大変多いですね。ここ5年ぐらいの間に、日本の3DCGアニメをはるかに超えるような質と量の作品が、中国で次々に作られています。中国のアニメーションと言えば、もう3DCGのほうに完全にシフトしているという印象です。

――中国アニメの主流が3DCGになっている中で、『羅小黒戦記』が手描きのアニメとして出てきたのは、非常に興味深いのですが。

 特に驚いたのは、『羅小黒戦記』のWeb版ですね。Web版は実際に見るまで、Flashアニメのようにベクター画像を使ったカットアウトアニメーション(いわゆる切り絵アニメーションのこと。近年は実際に紙を切ったものを動かして撮影するのではなく、CGで描かれた図形の組み合わせをコンピュータ上で動かすCGアニメが増えている)で作ったんだろうと思っていたんです。

 ところが実際に見るとそうではなくて、確かにカットアウトが基本なんですが、1枚ずつ手で描かないと作れない、ゴリゴリのアニメーションもふんだんにあって……。それはとても驚きました。こういったものを作っていた人たちが中国にまだいたんだ、しかもこんな高いレベルで作っている人たちが、いったいどこにいたんだろう? と。

――実際のところ、これまでどこにいたのだと思われますか?

 じつは19年の12月に、『羅小黒戦記』を作った北京のスタジオへ、見学に行ったんです。実際に行ってきてお話を聞いたところによると、Web版を作った時は本当に人が少なくて。作画のスタッフが3人ぐらいで、トータルでも10人ぐらいしかいなかったそうです。

 Web版を作っていた頃は、監督であるMTJJさんの周りにいた、アニメーターの仲間たちで作っていたのですが、映画を作る段階でスタッフを増強して、50人ぐらいの態勢になったそうです。そこで増やしたのはどういう人たちなのかと聞いてみたら、元いたスタッフと同じ学校の卒業生だと言っていました。向こうの美術学校の同級生や後輩たちに声をかけて集まったと。

 そういう意味では、そもそもまだ、どこにもいなかった人たちなのかもしれません。20代から30代前半の若いスタッフなので、個別にいろいろな企業の仕事をしていた人たちもいれば、美術学校を卒業してすぐそのスタジオに入った人もいるでしょう。なので、これまで中国や日本で作られるアニメの作画を下支えしていた人たちというよりは、これからアニメ制作を始めるぞ、という人たちに声をかけて集まったのではないか、という印象です。

phot

<補足>

 この点に関して補足すると、北京にはアニメーションを教える美術学校や映画学校がいくつか存在しており、学生が自主制作したアニメ作品を動画配信サイトなどで発表することも、盛んに行われている。『羅小黒戦記』だけでなく、『紅き大魚の伝説(大魚・海棠)』『詩季折々(肆式青春)』といった中国で近年制作されている手描きのアニメ映画でも、こうした北京の美術学校出身の人々が活躍しているようだ。

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