――『羅小黒戦記』の制作スタジオの様子について、もう少し詳しく聞かせてください。19年12月だと、映画の制作が終わって次の展開を準備しているタイミングだと思うのですが、その段階で何人ぐらいが働いていたのですか?
人の入れ代わりはあると思いますが、人数の規模は50人ぐらいから減っていないんじゃないかと思います。すでに次の劇場版を作ることが発表されていますし、Web版や外伝漫画の発表頻度を上げていくことも発表されていますので。
(※注:この取材後に、新型ウイルスの影響でスタジオが20年3月末まで休業するため、Web版の更新などは予定より遅れるとの発表が行われている)
ですから、劇場版を作るために集まった人たちが、完成したから解散するのではなくて、Web版などの新しい仕事を確保することで、次の劇場版に備えているんじゃないかと思います。見学に行った時も、劇場版が完成した後に入った動画のスタッフがいましたので、新人を育てていくということもやっているみたいですね。
――スタッフの人たちの働き方や、スタジオの雰囲気はいかがでした?
『羅小黒戦記』のスタジオは、スタッフの人たちが午前10時とか11時に仕事を始めて、午後5時、6時には仕事を終わる形でした。忙しい時でも、午後9時以降は残らないようにしているそうです。
お昼ご飯は社内に食堂があるので、シェフの人が作った食事をみんなで食べていました。『羅小黒戦記』の外伝漫画を描いている方が「お昼だよ!」と声をかけて、みんなでワーッと食堂に行って。料理も中国の家庭料理という感じで、とてもおいしかったです。そういった具合に、福利厚生も就業時間も非常にしっかりしていました。
一緒にスタジオを見学した中国人のアニメーターの方も、「こういう環境で仕事ができるのはうらやましい」と言っていましたから、中国でも珍しい環境なのかもしれません。
――入江さんは一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)の代表理事として、アニメ業界の労働環境問題についても、積極的に取り組まれている立場です。そんな入江さんから見て、『羅小黒戦記』のスタジオが充実した労働環境を実現しているのは、どんなところに理由があると思われますか?
『羅小黒戦記』の場合は、原作者であるMTJJさんが自ら監督して、自らスタジオを設立しています。つまりスタジオ自体がコンテンツを持っているんです。
『羅小黒戦記』はWeb版を発表するのと並行して、向こうのSNSのLINEスタンプ的なものや、キャラクターグッズを発売していたんです。そういったグッズから入って、かわいいキャラクターに親しんでいる女の子のファンが多いみたいで。劇場版を製作できたのは、Web版の配信による人気だけでなく、キャラクターグッズの面でも知名度があったからだと思います。
私が見学した時も、スタジオの中に商品開発部みたいなエリアがあって、監督が自分の原作物として、グッズやフィギュアをチェックしていました。そういうグッズは日本の場合だと、ソフト会社や製作委員会からグッズメーカーに発注するもので、アニメスタジオはたまに監修で回ってくるぐらいで、基本的には蚊帳の外ですよね。
それに対して『羅小黒戦記』のスタジオの場合は、自社で商品を企画開発して、監督が自らチェックしている。ということは、その収益もちゃんとスタジオに入るようになっているはずです。
――なるほど、スタジオ自体がコンテンツを持つことで、作品やグッズの収益がアニメスタジオに直接入って、そこで働くスタッフの労働環境に反映されるわけですね。
日本でも、アニメスタジオがコンテンツに対するイニシアチブをしっかりと持つ形になっていかないと、いつまで経(た)ってもメーカーや製作委員会から提示された制作費以上の収入を得ることができない。やっていかないといけない!と強く感じました。
『羅小黒戦記』のスタジオは、長い年月をかけてキャラクターの知名度を上げていって、高いクオリティーの劇場版で面白いものを作り、さらにその次につながるようにスタジオを維持していくということを実践しています。日本のアニメスタジオの在り方だけでなく、作品の作り方、コンテンツの作り方も含めて、見習うところの多いスタジオだなと感じました。
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