「シリコンバレーは中国に屈する」 Google元会長のエリック・シュミットが声高に唱える“危機感”世界を読み解くニュース・サロン(2/5 ページ)

» 2020年05月28日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

“強権”を強みに、AIを急成長させる中国

 最近、シュミットが19年5月に非公開の講演で議員らに語っていたビジョンが情報公開され、一部で話題になっている。この講演は、米政府の「AIに関する安全保障委員会」で行われた。

 そこでシュミットは、中国に対するかなりの警戒心を隠さなかった。基本的に彼は、中国はAIの活動で米国の先を行っており、憂慮すべき事態だと指摘している。5Gなどデジタルインフラの構築から、AIを使った自動運転、フィンテック(キャッシュレス決済)、AIやビッグデータで都市を支えるスマートシティ構想まで、現時点では中国には歯が立たなくなりつつあると指摘する。

シュミットは、フィンテックやスマートシティ構想で中国に歯が立たなくなると指摘(写真提供:ゲッティイメージズ)

 その上で、中国が先んじている理由をこう主張する。例えば中国では、スマートフォンやQRコードを使ったキャッシュレス分野が驚くほど普及しており、都市部ではキャッシュレスでなければ買い物ができないところも多い。シュミットいわく、その背景には、中国では伝統的な銀行システムが弱く、クレジットカード分野も弱く、市民がデジタルに移行しやすいということがある。

 ちなみに今その傾向はさらに強まっている。新型コロナで現金にウイルスが付着しているかもしれないというフォビア(恐怖)が広がっていることや、中国で多い偽札も防止できるというメリットもあり、ますます市民はキャッシュレスに向かっている。また消費者の数が圧倒的に多いということもある。

 シュミットは、それよりもさらに重要なのは、政府と民間が密接であり、規制緩和なども行いやすい環境があることだと指摘する。その上で、人権を無視して大衆を監視し、大量のデータを集めることが、AIで必要な「機械学習」に不可欠であり、それが中国では可能になっていると語る。米国なら、プライバシーや人権の問題によって、中国のような徹底した監視やデータ収集は難しい。

 例えば中国は今、顔認証の技術の発展がめざましいが、その裏には、情報を吸い上げる強権的な監視システムがあるからだと専門家らは口をそろえる。

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