暗号通貨コミュニティとは別に、有力企業が構想したデジタル通貨もある。
中でも有力視されているのが、Facebookが19年に発表したLibra構想である。そのインパクトは大きく、世界中の金融規制当局から警戒された。規制当局の反応を受け、Libraは2020年4月に大幅な方針変更を行った(「暗号通貨」の看板を下ろしたLibraの勝算)。Libraはまだ市場に登場していないが、潜在的には大きく伸びる可能性があるデジタル通貨だといえる。Libraは「スマートフォンアプリから送金する」といった使い方も想定しており、一般消費者もターゲットとなっている。ただしLibraの日本上陸の見通しは立っていない。日本の規制でステーブルコインがどう扱われるかが不透明だからだ。
Libraと並んで注目されているデジタル通貨が、「JPMコイン」である。世界最大級の銀行であるJPモルガン・チェースが、ブロックチェーン技術を活用して発行する予定だ。Libraと異なり、JPMコインは一般消費者向けではない。大口利用者が銀行内部での取引に便利に使えるデジタル通貨を目指しているといわれている。
こうしたデジタル通貨の本命となるのは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるとする見方がある。中央銀行は国の信用が伴うことから、強いデジタル通貨になると考えられている。
一方で、中央銀行デジタル通貨の問題点は「強すぎる」ことだ。国の信用をバックとする中央銀行デジタル通貨が流通すれば、「民間の銀行の必要性をなくしてしまうのではないか」と心配する声もある。
そこで、現時点で発表されている中央銀行デジタル通貨の構想は、民間の銀行を通じて配布される形となっている。中央銀行が発行した紙幣が銀行を通じて広まっていくのと似た構図だ。
例えばカンボジアで実証実験を行っている「バコン」では、中央銀行デジタル通貨を市中銀行を通して流通させる構想になっている。中国の「デジタル人民元」構想も、市中銀行を通じて流通させる「2階建て」の仕組みを採用すると伝えられている。
経済大国である米国や日本は、中央銀行デジタル通貨の研究は行っているが、その実現時期などには言及しない。既存の金融システムへの影響が大きすぎることから、発言には慎重な態度を取っているものと考えられる。日本円に対応する中央銀行デジタル通貨の登場はしばらく先になるだろう。
複数の情報を総合すると、日本で近い将来デジタル通貨の発行主体として有望なのは民間の銀行かもしれない。日本の法規制ではステーブルコインをどう扱うかが決まっていないことが問題となっていたが、「銀行が為替取引をデジタル技術を用いて行う」と整理すれば法規制上のグレーゾーンは解消する。しかも日本の大手銀行は、ブロックチェーン技術やデジタル通貨に関する研究開発をすでに進めている。
ここで問題になるのが日本の金融業界の風土だ。「金融庁が認めなければ、銀行は動けない」とする考え方が根強く、突出した取り組みは出てきにくい。このような風土で新しい取り組みを進める上での「定石」は、コンソーシアム形式で各社横並びに進めることだ。
冒頭で紹介したディーカレットが開催する「デジタル通貨勉強会」の顔ぶれは、3メガバンクや金融庁、日本銀行が入っている。この顔ぶれでデジタル通貨推進のコンソーシアムが結成されたなら、それはデジタル通貨を日本で登場させる上で一つの突破口になるかもしれない。
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