その理由は「会社法でインターネット出席の場合の定義がない以上、リアル出席と同条件にする必要があると解釈せざるをえなかった」(赤松氏)からだ。その条件を満たしていないと、決議の無効や取り消しのリスクを負うことになってしまう。
同条件という点で腐心したのは、議決権行使の部分ではなく質疑応答の手法だという。前述のように議決権行使は、iPadによる投票システムを使うことで同条件を担保できる。しかし質疑応答を同条件にしようとすると、簡単な話ではない。
会場では一定の質疑時間内で、株主の挙手→議長の指名→株主の質問→登壇者からの回答、という流れが一般的だが、これをインターネット出席の全ての株主に対してリアルタイムに同条件で実施するのは難しい、という判断だ。「電話、チャット、メールなどの方法を考えたが、希望する全てのインターネット出席株主に対し、質疑の機会を提供できない可能性もあり、そうなると同条件とは言い難いと判断した」(赤松氏)と顔を曇らせる。
実際このような経緯を、「顧問弁護士や証券会社に相談したら、第一声がリスクが高いので実施は難しい、という判断だった」(赤松氏)と振り返る。結果的には、当日コールセンターを設置して質問は電話で受け付け、会場の担当者に内線電話を転送する形式を採ることにした。これであれば、リアル出席者と同等の条件が確保できるとの判断だ。
ただ、これについても顧問弁護士や証券会社は「『リスクを最小限にした開催が可能』という言い方はするが、『法律をクリアしている』とは言わない」(赤松氏)そうだ。これだけの仕組みを構築しても、仮に当日、システム上で何らかのトラブルが発生し、リモート出席の株主が権利行使ができないような事態になると、決議の無効や取り消しの事由になりかねないからだ。
このあたりのリスクについて、経産省や法務省はガイドライン上でどのように指南しているのか。実は、このガイドラインがくせ者なのだ。というのは、ガイドラインには「これこれこういう方法と手順でインターネット株主総会を実施すれば、会社法などの各種ルールをクリアカットに満たしますよ」とは一言も書いていないからだ。「法的な考え方」といった形で論考が明示されてはいるが、子細に読むと「考えられる」「解釈できる」といった語尾が目立っている。つまり、実際の運用面でのコンプライアンスは、企業側の判断に下駄(げた)を預けた格好なのだ。
ちなみに、インターネット出席者からの動議についてガイドラインは、「企業側の合理的な努力で対応可能な範囲を越えた困難が生じることが想定されるので、動議を提出する可能性のある株主は、リアル会場に出向いてほしい、といった告知を実施することで、会場と同条件の仕組みを準備する必要はない」(意訳)と指南している。
このようなリスクを受け入れてまでインターネット出席を実現した理由について、赤松氏は「ICTの会社の矜持(きょうじ)として先進的な事例を示したいという経営層の英断があった」と話す。ウィズコロナ/アフターコロナの時代に、出席型のインターネット株主総会が受け入れられるのか、株主総会の季節の今だからこそ注視しておきたい。
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