新型コロナ禍で船内の衛生管理基準はどう変わる? 船会社が模索する「新しいクルーズ様式」クルーズ市場最前線(2/3 ページ)

» 2020年06月12日 14時00分 公開
[長浜和也ITmedia]
最新ガイドラインでは船内の多くの場所に手先消毒サーバを用意して、船客に消毒の徹底をお願いする

── この状況からクルーズを再開するためには、何が必要でしょうか。

山本 これまで、同時多発テロやSARS、MERSなど、クルーズに限らず観光市場自体が落ち込むことがありましたが、いずれも特定地域に限った影響にとどまっていました。しかし、COVID-19は違います。全世界的に広がっており、その初期段階においてクルーズ客船で集団感染が起きてしまいました。まずは、船旅だけが特別危険ではないことを周知する必要があります。それと同時に、船社にとっても十分な安全管理と衛生管理をしていかないとクルーズに対する信頼は回復できないと考えています。

 これまでも、従来策定していた衛生ガイド(WHOの船舶衛生ガイドライン、国際船舶医療ガイドなどをベースにゲンティンクルーズラインで策定)を守って対応していました。もともと、クルーズ客船において疫病対策は十分に管理されていました。全く未知の存在だったCOVID-19に関しては、先行症例から明らかになった知見に応じて衛生ガイドを随時アップデートしています。

 最新のガイドラインはゲンティンクルーズラインのWebページで公開しています(注:4月8日英文公開。消毒レベルの強化と回数の増加、船内換気システムの更新、劇場など公的施設の座席間隔の確保、ビュッフェのセルフサービス廃止、上船前の健康チェック徹底など8章48項目で規定している)。現時点(5月21日)では英文のみですが、日本語に翻訳中で、完成次第、WebページやSNSで周知する予定です。

船内消毒ペースを従来より多くするように規定している
ガイドラインでは船内換気についても規定し、船内循環をやめて外気の100%採り入れとした他、エアフィルターのメンテナンスの徹底を明記している

 いま、外国船社の日本オフィスに所属するスタッフ有志や旅行会社の方々と定期的にオンラインで情報を交換しています。そこでは運航再開のために各国の入国状況を共有したり、日本のマーケットの信頼回復のためにはどのような安全と衛生の基準が必要なのか、関係各所、当局とどのように取り組んでいけばよいのかなど、調査、考察したりしています。

 COVID-19に対するクルーズの安全と衛生管理の基準は、これまでと全く異なる新しいレベルになるはずです。基本的に、上船から下船に至るクルーズにおける全てのプロセスが大きく変わるでしょう。全ての船客と乗員に体温測定を実施し、通路などの共用部分や公共施設における消毒回数を増やし、船医の人数を増やすなど、新しい公衆衛生管理の取り組みを公開する船社が増えています。

 また、クルーズで提供するサービス内容においても、船内でソーシャルディスタンスを確保するために、定数3000人の船で2000人までしか乗せない、上船前にPCR検査または抗体検査などの証明書を提出していただく、ビュッフェのセルフサービスを止める、レストランの定員を半分にしてテーブルの間隔を空ける、シアターの定員も半分にする、バーカウンターには透明の仕切りを設ける、乗船者は全員必ずマスクを着用する、などのルールを求める可能性もあります。COVID-19については、まだ不明なことも多く、新しい知見が確定した段階で、これらのルールも随時アップデートすることになるでしょう。

 ガイドラインのアップデートに関しては、各国行政機関や専門機関の知見を反映しています。ゲンティンクルーズラインのグループ企業の1つであるスタークルーズでは、4月からシンガポール政府の要請に応えて、外国人労働者(注:シンガポールでは3月初旬からCOVID-19感染者数が急増しており、その多くがシンガポール国外からの外国人労働者が占めている)のCOVID-19治療回復者を健康観察する施設として2隻のクルーズ客船(SuperStar GeminiとSuperStar Aquariust)を提供しています。2隻合わせて3000人近くを受け入れたと聞いています。この受け入れにおいて、政府当局監修のもと、船内に感染防止環境や新しい換気システムを導入し、乗員も保健省から食事の提供方法など感染防止策の訓練を受けています。

シンガポール政府の要請に応えて健康観察施設として利用された「SuperStar Gemini」の経験はゲンティンクルーズラインにCOVID-19に対する防疫に関するノウハウと経験を蓄積する機会となった

 ドリームクルーズが所属するゲンティンクルーズラインの強みとして、今紹介したシンガポール政府と保健当局から受けた指導とトレーニング、そして、健康観察施設として実際に船内でオペレーションを実施して得たノウハウの蓄積と実績をあげることができます。このような経験をしたクルーズ船社は今のところ他にありません。

 ただ、クルーズの再開にあたって絶対に失敗、すなわち感染者を出すわけにはいきません。失敗したらどうなるのかという恐怖はどこのクルーズ船社も感じていると思います。確実な安全をどのように実現できるか、今検討を重ねています。特に日本ではクルーズに対する印象がことさら悪くなっていますから、なおのことお客さま、乗務員、寄港地で接点がある方々など、クルーズに関わる全ての人々に安全で安心な船旅を提供するため、できうる全ての対策をしなければいけないと思っております。

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