新型コロナ禍で船内の衛生管理基準はどう変わる? 船会社が模索する「新しいクルーズ様式」クルーズ市場最前線(3/3 ページ)

» 2020年06月12日 14時00分 公開
[長浜和也ITmedia]
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── クルーズ再開に向けたロードマップは用意されていますか。

山本 先ほども述べたように、クルーズ再開に向けたロードマップは早い段階から用意しています。感染症が世界的規模で拡大し、市場に大きな影響を及ぼすことを想定した場合の対応策については以前から準備していました。ただ、その実行するスピードは、各国の状況によって柔軟に対応していきます。

 また、COVID-19が現在進行形の問題で未確定な部分が多いため、段階的に実施する項目は決めてありますが、それを実施する具体的なスケジュールは確定していません。また、内容についても常にアップデートしております。ただ、日本では緊急事態宣言が解除され、緩和されつつあるので、次の段階に進める時期が来つつあると考えています。

 再開に向けた次のステップには、策定しているCOVID-19対策ガイドラインを提示して、船の安全性を周知するフェーズが来る予定です。安全基準や衛生管理基準については、クルーズライン国際協会(CLIA)やWHO、各国CDCが用意するガイドラインや提言に準拠して定めることになります。日本でも、日本外航客船協会(JOPA)が共通の安全基準を定めることになるでしょう。ただし、具体的な基準やルールは各船社が策定します。それと同時に日本では、皆さんからの信頼を回復するために旅行会社も含めたクルーズ業界全体で船旅の安全を周知する活動が必要かもしれません。

 一方、各国の海外渡航に関する制限が解除にならないと実質的な外航クルーズは再開できないでしょう。そのため、それぞれの国では国内消費者だけを乗せた無寄港クルーズから再開する可能性もあります。

 ドリームクルーズの再開については現在白紙状態です。横浜など日本の港を発着するクルーズを実施することなども考慮したいですが、外国船籍客船の義務である「カポタージュ制度」(外国船籍の船は必ず海外の港に寄港しなければならない制度)の制約もあって実際は難しいです。

 また、寄港地での受け入れも難しく、上船下船だけならまだ可能ですが、寄港地で行動するとなると市中での接触はどうしても発生してしまいます。寄港地受け入れ当局や地元商工会、そして住民に対する説明が必要ですが、これは船社個別ではなく政府当局にも協力していただく必要があると考えています。

── 建造中の20万総トン級「グローバル ドリーム」の就役は予定通りですか。

 グローバル ドリームの就役は予定から遅れる可能性があります。これは造船所が一時閉鎖となったためです。しかしながら、すでに作業を再開し、先日は船に備えるケースとしては初となるローラーコースターを試験しています。

 就航に関する計画は今後柔軟に考えていきます。現時点で決定していることはありません。なお、2020年のシーズンにおいて豪州クルーズは中止することが決定しています。その他の航路も今後の状況に合わせて柔軟に対応していることになるでしょう。

 ただ、グローバル ドリームの存在は、現在在宅勤務を続けているスタッフにとって精神的な支えになっています。これから登場する新しい大きな船はクルーズ船社にとってやはり希望です。グローバル ドリームでは、レストランの混雑状況を提示したり、顔認識や音声認識の技術を導入し、併せてクラウドコントロール(大人数の動線を誘導制御することで混雑の発生を減らす)にも力を入れています。船のサイズも大きいのでソーシャルディスタンスが確保しやすいなど、これから求められる「新しいクルーズ様式」に適した客船となるでしょう。

現在建造が進んでいる20万総トン級の「グローバル ドリーム」は当初2021年の第1四半期に就役する予定だった
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