「早すぎたリケジョ」が氷河期に味わったジレンマ――“ダイバーシティー無き企業社会”は変われたかロスジェネ女子の就職サバイバル(3/4 ページ)

» 2020年06月19日 18時00分 公開
[菅野久美子ITmedia]

望んでいた「バリキャリ路線」とは程遠く

 結婚がないなら、働かなくては――という思いを強くした。佐藤さんは、その後、紹介予定派遣から契約社員という道を歩む。そして、ようやく正社員になれたのは35歳のときだ――。

photo 内閣府の就職氷河期世代支援プログラムの概要(公式Webサイトから引用)

 正社員になれたものの、ずっとモヤモヤは消えないままだった。

 本当は、バリキャリみたいになりたかったし、出世もしたかった――。

 OBOG訪問すると、バブル世代は甘々で会社に入っているし、下(の世代)で就職戦線の苦労もなく余裕で入ってきて、無邪気で苦労した形跡がない。そんな姿を見ていると、自分が悪いわけじゃないと心では分かっているのに、今のポジションが惨めだと感じて、焦り、傷ついてしまう。

 30代後半、佐藤さんはそのジレンマに心を病み、休職することになる。

 休職期間中は図書館ばかり通っていた。図書館には、バリキャリ女性のお手本のような雑誌が並んでいる。ページをめくると、広告代理店に勤務する女性の一週間のお洋服コーディネートというコーナーがあり、とてつもなく輝かしく見えた。

 そのときにふと、気がついた。

 「私、これまでの人生で何が一番悔しかったんだろうと思ったんです。本当は、こうなりたかった。だけど、そうなれなかったことが苦しかったんだなと気がついた。彼氏やパパからブランド物のバッグを買ってもらえるキャピキャピした女子もうらやましいし、自分で稼いで買いましたというバリキャリ路線を見てもシュンとなる。どっちにもなれない自分が悔しかったんだなって」

 そんな自分を冷静に見つめた時に、もう、その感情は手放していいんじゃないか、そう思えるようになった。

 46歳独身――。今後、同じ会社に勤め続けても、給料が上がる見込みはない。今は、ブランド物は興味ないし、メルカリで古着を見るのが楽しい。婚活よりも、終活を考える年齢になった。若手登用で、自分より下の世代がピックアップされ、年下で役職が上になった後輩もできた。かつて憧れていた自分の姿に重なる。しかし、今はその後輩の出世を素直に「おめでとう」と言える自分がいる。

 佐藤さんは氷河期という時代にさえ翻弄されなければ、明らかにバリキャリ・リケジョというキャリアを手に入れられた聡明さの持ち主だ。私は同じロスジェネ世代の女性として、そこに行き場のない悔しさや憤りを覚え胸が苦しくなった。しかし、佐藤さんはきっと毎日のようにそんな思いと闘って、今の境地に至ったのだ。

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