「早すぎたリケジョ」が氷河期に味わったジレンマ――“ダイバーシティー無き企業社会”は変われたかロスジェネ女子の就職サバイバル(2/4 ページ)

» 2020年06月19日 18時00分 公開
[菅野久美子ITmedia]

「当たり前の社会人」にはなれず……

 現在大企業でよく開かれる「理系女子向け就職説明会」なども、ある訳も無い。むしろリケジョどころか、「女子である」ということだけで強烈な不利を背負っていた。ロスジェネ女子たちは氷河期という悪条件の中、さらに少ないパイを巡って苛烈な戦いを挑むしかなかった。

 結局、就職戦線に敗れた佐藤さんは、就職先を見つけることはできなかった。そのため、知人の紹介で事務職のバイトの仕事をすることになる。最低賃金で、手取りは10万円ほどだが、プータローよりはましだ、そう自分に言い聞かせた。当時は実家暮らしのために、なんとか衣食住は確保することができた。

 「一番つらかったのは、企業に運良く入社した同級生が、『今日は、会社の新人研修が大変だよ』『今、同期と飲んでるよ』など近況をメールを送ってくることですね。そのうち、『社内結婚して、子供が産まれました』という年賀状に変わったりして、私は当たり前の社会人像から外れたんだという思いに、とても苦しめられました」

 社会から受けた理不尽さも拍車を掛ける。ある日、転職先で上司のパワハラに遭い、無理やり会社を辞めさせられた。しかし職安に行ったら、自己都合退職になっていた。職安の職員も、「交通事故に遭ったと思って諦めてください」とぞんざいな態度だった。

 そんな社会に対して、絶望と不信が高まる一方だった。

 氷河期という社会背景も影響してか、卒業して5年以内に大学の同級生の半数以上がバタバタと結婚していった。佐藤さんも、結婚を考えたこともある。

 親の紹介で、お見合いも経験した。お相手の男性は、メガバンクに勤めるエリートだった。男性はニューヨークで勤務にしていたときの話をしてくれた。海外勤務はつまらなくて、日本人とばかりつるんでいたという。同世代なのに、あまりにも違う状況に、唖然(あぜん)とさせられた。

 私と違ってチャンスにも恵まれて、世界を股にかけているのに、何てもったいないんだろう。そう思ったら、だんだんイライラが募ってきて、「この人は無理」だとなった。

 「ロスジェネの難しいところって、みんながみんな苦労したわけじゃないというところだと思うんです。今も、勝ち組ロスジェネ男性とは話が合わないですよね。ロスジェネでも俺たち頑張ってるからすごいと言う。でもそれあなたの実力以外のところもあるよねと思う。一歩間違えば自分も、そうなっていたかもしれないという想像力がない。勝ち組負け組がいて、世代の中でも色分けされている。本当に人によって、ケースバイケースで、そこには深い分断がある。勝ち組の男の子たちをみたときに、心の底からむかついている自分がいて、そんな人と一生添い遂げるかといったら、それはないと思いました」

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