「早すぎたリケジョ」が氷河期に味わったジレンマ――“ダイバーシティー無き企業社会”は変われたかロスジェネ女子の就職サバイバル(4/4 ページ)

» 2020年06月19日 18時00分 公開
[菅野久美子ITmedia]
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男だったら「理系だし就職できていた」

 そんな佐藤さんに、もし、自分が新卒時に男性だったら――?と少しいじわるな質問をしてみた。どんな人生を歩んでいたのだろうか。佐藤さんによると、理系なので(不景気であっても)おそらく正社員として引きはあっただろうと考えている。キャリアを積んで子供がいて、今頃家庭を築いていたかもしれないと答えてくれた。

 「働くことがデフォルトなので、同世代の男性は楽ですよね。だけど、女性は20代、30代、40代で、いかに仕事の賞味期限を延ばすかとの闘いが待っている。20代後半には結婚という線引きがあって、30代は、子供を産む産まない分岐。40代は、もう歳だよねという分岐。仕事以外の役割が大きいので、男性より大変だと思う。環境が仕事だけに打ち込ませてくれないところがあったから」

 それでも、不景気が予想されるコロナ禍において、今後はロスジェネの経験も無駄ではないかもと佐藤さんは語る。「今後、年金は今よりもらえなくなるし、経済的に生活の質を落とさなきゃいけないと思うんです。そうすると今の質素な生活は、落とす幅が少ない分、ダメージは少ないと思うんですよ」

 女性活躍の旗頭とも言える「リケジョ」を始め、今の女子大生の間では「自己実現」や「結婚出産といった人生設計」を仕事選びに組み込む価値観が根付いているように思える。会社側にとっても、男社会に無い彼女たちの能力や価値観を生かすことで、ひいては企業利益につなげられるというメリットがある。

 しかし氷河期の会社は、「理系」どころか女子という属性だけで佐藤さんたち貴重な「戦力」を生かそうともしなかったようだ。彼女が長きにわたり心に負った深手は、今のキラキラしたリケジョとは別世界の話のようにも見える。

 一方、昨今の新卒就職はコロナ禍を受け、売り手市場から急変しつつある。リーマンショックとも比較されるこの不景気、果たして佐藤さんのように割りを食う誰かが出ないとも限らない。氷河期の頃から手のひらを返したようにダイバーシティーをうたう今の企業社会だが、本当に変われたのだろうか。「早すぎたリケジョ」は、決して単なる過日の物語ではない。

著者プロフィール

菅野久美子(かんの くみこ)

フリーライター。1982年宮崎県生まれ。大阪芸術大学卒。出版社の編集者を経て2005年から現職。孤独死や性にまつわる記事を多数執筆。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)など。


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