それでも接触確認アプリを入れるべき3つの理由星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(2/4 ページ)

» 2020年06月24日 07時00分 公開
[星暁雄ITmedia]

「14日以内、1メートル以内で15分」の接触を、端末内だけに記録

 接触確認アプリの基本的な機能とは「新型コロナウイルス感染症の陽性者と判定された人に対して、潜伏期間にあたる過去14日以内に濃厚接触(1メートル以内で15分以上)したかどうか」を教えてくれることだ。

iPhone版の接触確認アプリ

 このアプリは、低消費電力の通信機能BLE(Bluetooth Low Energy)を使い、同じアプリが動くスマートフォンを探し、お互いの「匿名ID(識別用の番号の一種)」を記録する。匿名IDはランダムに変化し続けており、個人の特定には使いにくいように配慮されている。1メートル以内で15分を目安として、濃厚接触した匿名IDを端末内(サーバ上ではない)に保管する。

 もし、ある人が新型コロナウイルス感染症で陽性と判定されたら、保健所など公的機関が発行する「処理番号」を受け取り、接触確認アプリに入力する。これは陽性と判定されたアプリ利用者本人が行うことになっている。「処理番号」を受け取る必要がある理由は、不正を防止するためだ。

 ここから先はクラウドを経由して、匿名IDを頼りにそれぞれの接触確認アプリの利用者に「過去2週間以内に陽性者と濃厚接触した」ことを伝える通知が届く。この通知を受けた人は、症状に応じて検査を受けるなり自己隔離を行うなり、指示された措置を取ることになる。これも本人の意思にまかされており、強制ではない。なぜなら、政府機関であっても、誰に通知が届いているかを知ることはできないからだ。

 以上にように、このアプリは個人の自由とプライバシーを最大限尊重する作りになっている。例えばの話だが、いわゆる「夜の街」で働いており、自分の行動を政府機関はもちろん身内であっても知られたくない立場の人がいたとしよう。筆者は、このような人こそ「接触確認アプリを入れるべきだ」と助言したい。プライバシーを最優先する人が自分の身を守る手段として、今回の接触確認アプリは最適なソリューションといえるからだ。

理由1:大勢が使うことでアプリの有用性が増す

 前述した「アプリを入れてほしい理由」を、もう少し詳しく説明しておこう。1番目の理由は「大勢が使うことでアプリの有用性が増す」ことだ。

 ここで「接触アプリは人口の6割が導入しないと有効ではない」といった言説を目にした読者もいるかもしれない。これは誤解である。

 「人口の6割」の根拠としてよく引用されるのは、英オックスフォード大学の研究者による論文である。筆者も前回のコラムでは「接触追跡アプリで感染拡大を防ぐには、100万人都市で人口比56%以上まで普及しなければ有効ではない」という表現でこの論文を紹介したが、実は後悔している。この表現には注釈が必要だったからだ。

 論文の柱となる主張は「接触確認(接触追跡)アプリが人口の6割程度(56%)まで普及すれば、アプリによる感染追跡と隔離『だけ』で感染拡大を防げる可能性がある」ということなのだ。それにこの数字は数理モデルに基づくシミュレーションの結果である。モデルにない要素が加われば結果は変わる。

 私たちが持つ感染拡大防止の手段は、もちろんアプリ「だけ」ではない。私たちは、今までにも、外出自粛、在宅勤務の励行、マスク着用、手洗い励行、体温の測定、飛沫(ひまつ)防止のビニール板をレジに置く、対人距離を取るなど、感染拡大を防ぐ日常的な努力をすでに行っている。医療分野でも、個別の医療機関での取り組みや、聞き取り調査を行い集団感染を追跡するクラスター分析などが実施されている。これらの既存の手段に加えて、新しい手段として接触確認アプリが加わる――こう聞けば、印象はずいぶん変わるのではないだろうか。

 「人口比で6割導入しなければ意味がない」という言説に惑わされてはいけない。私たち一人一人がアプリを導入してその効果を実証してみることは、今の私たちにとってプラスにこそなれ、マイナスにはならない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.