今回のコラムでは、大筋で次のような話をしていきたい。(1) 世界の国々はSNS(ソーシャルネットワーキング)規制で悩んでいる。(2) SNS規制には副作用があり、複数の視点から考える必要がある。(3) 英国の提言の中で「SNSで議論を遅くする仕組みを作れ」という意表を突く指摘がある。複雑だが、重要な話だ。
日本でも、SNS規制を巡り、大きな動きが起きている。きっかけは、5月23日、Netflixとフジテレビの人気番組「テラスハウス」に出演中だったプロレスラー木村花さんが、22歳の若さで亡くなったことだ。死因は非公表だが、番組出演に関してネットで誹謗(ひぼう)中傷を受けていたことを苦にしていたといわれている。胸が痛む事件だ。気になるのは、日本の政治家たちがこの事件に即座に反応し、SNS規制を進める意向を口にしたことだ。
米国でも大きな動きがある。20年5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人男性George Floydさんが警官に首を圧迫されて死亡した。同様の死亡事件が相次いでいたことから、怒った市民たちが抗議活動を展開、その中から暴動も起きた。
トランプ米大統領はこれに反応し「略奪が始まる時、発砲が始まる」とTwitter、Facebook、Instagramに投稿した。Twitter社は、大統領のツイートを「暴力を賛美する」として非表示扱いにし、一方で「公益性がある」ことからボタンを押せば内容を読める形とした。一方、Facebookはそのままの形で掲載を続けている。Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは「不快な内容だが、権力者には説明責任がある」と判断を説明した。
トランプ大統領は、それ以前のツイートに対してTwitter社から「ファクトチェックが必要」との注釈を付けられており、Twitterに対して頭にきていたようだ。さっそく大統領令を出した。内容はSNSの法的責任を定めた「通信品位法第230条」の判断を連邦通信委員会(FCC)に求め、同時に連邦取引委員会(FTC)にもTwitter社の不正を調査するよう指示したものだ。FCC委員のひとり、民主党のジェシカ・ローゼンウォーセル(Jessica Rosenworcel)氏は、大統領が「FCCを"大統領の言論警察"に変えようとしている」と非難した(米Business Insiderの記事参照)。
SNS規制を進めている国は複数ある。ドイツは、大手SNSに掲載されたネオナチや移民へのヘイトなど違法なコンテンツを、24時間以内に削除するよう求めるSNS対策法を2017年に制定、18年より施行した。しかし成立過程の議論では反対意見も多かった。フランスは、選挙期間におけるフェイクニュース拡散を防止する「情報操作との闘いに関する法律」を18年に制定した。これ以外にも動きは多い。ただし、その評価はまだ定まっていない。対策の有効性や、言論の自由との両立のあり方についての議論はまだ続きそうだ。
SNSの規制はどのようなあり方が最適なのか。SNSの負の側面を抑えながら言論の自由を守るやり方はあるのか。
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