新型コロナウイルス対策の強力な新ツールとして、期待されているスマートフォンによる接触追跡の方式をめぐり、欧州で激しい議論が起きた。大きな対立軸は、「AppleとGoogleが共同開発する方式を使い、情報の集中管理を排除するか、独自方式で情報を集約するか」だ。
背後には、情報を集約して新型コロナ対策に役立てたい各国政府の思惑と、大規模監視を阻止する考え方の対立がある。日本がどちらの方式を採用するのか、まだ正式には発表されていない。
この接触追跡とはどのようなものなのか。実は、日本で行われてきた「クラスター対策」と呼ぶ取り組みと似ている部分がある。クラスター対策は、新型コロナウイルスに感染した人への聞き取り調査により、濃厚接触した人々のつながりを追跡する。一方、新方式ではスマートフォン上の記録を用いて自動的に追跡する。
これがうまく機能すれば、マンパワーの心配なく、大勢の人々の追跡が可能となり、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ有力なツールとなる可能性がある。IT分野の言い回しを使うと「スケールするソリューション」であるわけだ。
接触追跡の取り組みは複数あるが、特に注目されているのは、2020年4月10日にAppleとGoogleが発表した方式だ。スマートフォンOSのトップベンダー2社が手を組んだことからも、接触追跡が重要であることが分かる。
AppleとGoogleが共同開発するスマートフォン接触追跡の方式は、プライバシー保護が徹底していることが特徴である。仕組みは次のようになる。
AppleとGoogleが共同開発する方式の重要なポイントは、濃厚接触の通知が行くのは、あくまでも「当人だけ」である点だ。個人を特定できる情報が、政府機関のサーバに集約されることはない。プライバシー情報が漏洩(ろうえい)する可能性を最小限に抑えている。
ところが、英国とフランスは、AppleとGoogleが共同開発する方式とは異なる方式を採用する計画だ。背後には、濃厚接触の情報を国の機関に集約し、感染症対策に結びつけたいとの考えがある。
ここで英国とフランスは技術的な制約に直面した。Appleのスマートフォンに搭載するiOSでは、接触追跡アプリをバックグラウンドで動かしながらBluetoothを使い続けることには技術的な困難があり、アプリがうまく機能しないか、バッテリー消費が増えすぎてしまうといわれている。
AppleとGoogleが共同開発する新方式は、アプリだけでなく、OSの修正も組み合わせてこのような問題の解決を図る。そこで英国とフランスは、自分たちのアプリの問題解決をAppleに依頼したが、断られてしまった。フランスのデジタル大臣は「非協力的だ」とAppleを非難した。英国は、独自アプリがうまくいかない場合に備えてAppleとGoogleが共同開発する新方式への切り替えを視野に入れた検討を始めたと伝えられる(英ガーディアンの記事参照)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング