Apple-Google方式か国に集約か 新型コロナ感染をスマホで追跡星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(2/2 ページ)

» 2020年05月20日 07時00分 公開
[星暁雄ITmedia]
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プライバシーへの懸念で議論が起こる

 英国やフランスが採用する手法は情報を集約するが、このやり方には根強い反対意見がある。この4月、世界中の情報科学の研究者ら約300名が、スマートフォンを通じて国の機関に情報を集約する取り組みに対して、「前例がない規模の市民の監視強化につながるおそれがあり制限されるべきだ」と反対する声明文を出した。この声明文では国の機関が中央管理型のデータベースに情報を集めること自体に反対している。収集した情報が悪用される危険があるためだ。声明ではAppleとGoogleが共同開発する方式を採用するよう各国に呼びかけている。

 英紙Financial Timesは、ドイツ、イタリア、アイルランド、オーストリア、スイスは、AppleとGoogleが共同開発する方式を採用する見通しと報じている。中央に情報を集約する独自方式では市民の支持が得られず、またAppleとGoogleの技術協力が得られないためだ。

 日本でも接触追跡への取り組みはある。ITで地域課題の解決を目指す市民団体、Code for Japanは、AppleとGoogleが共同開発する方式に基づく接触追跡アプリをすでに開発済みである。ところが、最近になってAppleとGoogleが共同開発する方式に基づくアプリは、1つの国につき保健当局が提供する1種類のアプリに限定するとの方針が発表された。これを受け、日本では厚生労働省に開発を一元化することが決まった。Code for Japanはできあがっていた接触追跡アプリを公開しないことに決めた。

Code for Japanが開発した接触確認アプリ「まもりあい Japan」

 この経緯を見れば、日本はAppleとGoogleが共同開発する方式を採用するようにも思える。ただし記事執筆時点では正式発表はない。

 Code for Japanが開催したオンライン勉強会で、医師の宮田裕章氏(慶應大学教授 医学部・公衆衛生)は次のように述べている。「諸外国の事例を見ても、これ(接触追跡アプリ)が決定打になることはないだろう。接触追跡の一本足打法ではなく、他の手法と組み合わせて使うことになる。そういうとき、Tech Giant(AppleやGoogleなど)や国に任せるだけではなく、市民による取り組みも今後は必ず必要になる」と、Code for Japanの取り組みの意義を説明した。見方を変えれば、1国1種類の接触追跡アプリは強力なツールになる可能性はあるが、それに頼り切ってはいけないと警告した形だ。

接触追跡アプリは万能ではない

 実際、追跡接触アプリへの懸念材料はある。例えば「接触追跡アプリで感染拡大を防ぐには、100万人都市で人口比56%以上まで普及しなければ有効ではない」とするシミュレーション結果がある。各国に先駆けて独自の接触追跡アプリを展開しているシンガポールでも、ここまでの普及率は達成していない。

 接触追跡アプリは、新型コロナウイルスとの共存を強いられる社会にとって、感染拡大をいち早く防ぐ強力なツールとなる可能性がある。ただし、過信は禁物だ。

筆者:星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に取材対象として関心を持つ。学生時代には物理学、情報工学、機械学習、暗号、ロボティクスなどに触れる。これまでに書いてきた分野は1980年代にはUNIX、次世代OS研究や分散処理、1990年代にはエンタープライズシステムやJavaテクノロジの台頭、2000年代以降はクラウドサービス、Android、エンジニア個人へのインタビューなど。イノベーティブなテクノロジー、およびイノベーティブな界隈の人物への取材を好む。

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