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» 2020年06月03日 07時00分 公開

星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」:木村花さん事件とトランプ対Twitterと「遅いSNS」 (3/4)

[星暁雄,ITmedia]

国連決議「インターネットの自由な利用は人権である」

 もっと恐ろしい副作用は、時の政権が批判を封じ込めるために制度を悪用する可能性があることだ。

 2010年から11年にかけて、チュニジア、エジプトなど各国で相次ぎ民主化運動が起きた(アラブの春)。運動を妨害するために政府がインターネット遮断を試みる動きもあった。このような問題を背景として、国連人権委員会は16年に「インターネットの自由な利用は人権の一部である」と決議した。人権に関する基本的な文書である1948年の「世界人権宣言」、それに続いて制定された国際条約「国際人権規約」が定めている表現の自由、結社の自由はインターネットでも守られなければならないと述べた。先にグラフで示した日本の資料では「インターネット上の人権侵害」を問題としていたが、国連人権委員会は「インターネットの自由な利用の阻害」を人権侵害と認定したのである。

「インターネットの自由な利用は人権の一部」と、国連人権委員会は決議した

 ここで重要なことは、「国連加盟国の政府は市民のインターネットの自由な利用を人権として守らなければならない」と求めたことだ。インターネットは多くの人々に教育機会を与え、経済的、文化的な活動を支援する。社会的に弱い立場に置かれた人々をエンパワーメント(支援)するツールとして有効だ。一方で、国連の決議の書面では、インターネットがヘイト(憎悪)や暴力の扇動、情報の混乱に使われる可能性にも言及し、加盟国の政府がこのような行為に加担しないように求めている。

 国連決議にある懸念の通り、ヘイト(憎悪)や暴力の扇動、フェイクニュース(偽情報)による混乱の助長などの問題はインターネット上で起こり続けている。大きな視点で見れば、日本のSNS規制強化の動きも、トランプ大統領とTwitterとの対立も、SNSをめぐるヘイトと暴力の問題の一種だ。もちろんヘイトや暴力賛美とは戦っていく必要がある。問題は、どのような手段で戦うかである。

 インターネットに関連するこのような問題に取り組む上では「定石」がある。まず事業者に透明性を求めること、そして複数の立場の関係者が意見を出し合う「マルチステークホルダープロセス」で規制を進めることである。各国の政府機関によるトップダウンの法規制よりも、すべての当事者の意見を取り入れた透明で中立的なプロセスが求められている。

 国連人権委員会が指摘するように、インターネットには言論の自由を守り、市民をエンパワーメント(支援)する強力なツールとしての側面がある。この側面を阻害しない形でのSNS規制が求められている。

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