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» 2020年06月03日 07時00分 公開

星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」:木村花さん事件とトランプ対Twitterと「遅いSNS」 (2/4)

[星暁雄,ITmedia]

日本の政治家はSNS規制に前のめり

 日本の政府、そして野党の政治家は、木村花さんが亡くなったニュースに素早く反応し、SNS規制を進める考えを示した。

 実は総務省では、事件の前の4月から有識者会議「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を立ち上げ、SNS運営企業を規制する「プロバイダ責任制限法」を改正する方向で検討を進めていた。SNS上で名誉毀損の被害を受けた人が発信者情報を突き止めるのには、2回の裁判手続きと10カ月以上の時間がかかるといわれている。法改正により、より素早く、より多くの情報を開示できるようにする方向だ。

総務省が開催した有識者会議では、発信者情報開示請求に関する背景として、インターネット上の人権侵害事件が急増している資料が示された

 5月25日、菅義偉内閣官房長官は記者会見の中で、「プロバイダ責任制限法」をめぐる取り組みに言及した。5月26日、高市早苗総務相はプロバイダ責任制限法の改正を含めた対応を「スピード感をもってやっていきたい」と述べた。

 国会でもこの問題に取り組む動きが出てきた。与党の自民党は5月26日、ネット上の中傷や権利侵害への対策を検討するプロジェクトチームを、参議院議員三原じゅん子氏を座長として発足させた。野党も協調する動きを見せている。5月25日、立憲民主党の安住淳氏、自民党の森山裕氏と与野党の国会対策委員長が会談、インターネット上で他人を誹謗中傷する行為の規制について与野党で協議することで意見が一致した。

 業界団体も素早く反応した。5月26日、一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構 は「ソーシャルメディア上の名誉毀損や侮辱等を意図したコンテンツの投稿行為等に対する緊急声明」を発表した。業界団体としても、政府の規制強化に先駆けて業界の自主規制を整備する必要性を認識しているのだ。

 個別企業からのアピールも出てきた。ヤフーは6月1日、「Yahoo!ニュース」へのコメント投稿に関して、「投稿してもよいコメントなのかどうか、誰かを傷つけるおそれがないかどうか考えた上で」行ってほしいと呼びかけた。同時に、コメント欄を専門チームが24時間365日体制でパトロールしていること、さらに機械学習を応用した自然言語処理モデル(AI)による検知を通して、1日平均約2万件の不適切な投稿を削除していると発表した。発表文では「今般、大変痛ましい事態についての報道があったことを踏まえ、Yahoo! JAPANはこれからも対策を強化して対応をしてまいります」と述べている。木村花さんが亡くなった事件の影響がうかがえる。同社はさらに、不適切な投稿を発見する技術を他社にも提供していく考えだ。

 政府と自民党は、誹謗中傷を行った人物の個人情報をより素早く開示させることで、名誉毀損などで訴えることを容易にする方向で法改正を狙っているようだ。SNS運営企業の側も、規制強化を見越してSNSの「使い方」(デジタルリテラシー)の啓発や、テクノロジー活用などの取り組みを強化する構えだ。

 ここで注意したいことがある。「規制を強化せよ」と単純に圧力をかけるだけでは良い結果は得られない。規制には副作用がある。求められていることは、複数の視点から議論を深めていくことだ。

 例えば人々をだます怪しい商法に対して、SNSで批判、告発する人々に対して訴訟を起こすと恫喝(どうかつ)する、いわゆるスラップ(SLAPP)訴訟は後を絶たない。制度改正はスラップ訴訟を仕掛ける側に有利に働く懸念もある。

 また、気に入らないコンテンツをインターネット上から削除するために、米国のDMCA(米デジタルミレニアム著作権法)を濫用する事例が相次いでいる。制度が本来の目的とは違う目的で使われることは想定しなければならない。

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