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» 2020年06月24日 07時00分 公開

星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」:それでも接触確認アプリを入れるべき3つの理由 (4/4)

[星暁雄,ITmedia]
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この次に出てくる政策は、よりプライバシーを侵害するものになる

 アプリを導入してほしい理由の3番目は「今回の接触確認アプリがうまくいかないとなれば、個人のプライバシーを侵害する政策が打ち出される懸念がある」ということだ。

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、よく言われていることは、「日本でも感染症拡大を防ぐ立法措置が必要」ということだ。韓国や台湾は新型コロナウイルス感染症の拡大をうまく防いだが、その背景には感染拡大防止のために国民の個人情報を政府が活用できたことがあったといわれている。「日本でも私権(プライバシーなど)を制限する法律を作って感染症拡大を防いだ方がいい」という意見は根強く存在する。

 一方で、個人の自由とプライバシーを最大限尊重する接触確認アプリがすでに目の前にある。皆さん一人一人の考え方は同じではないだろう。例えば、積極的に政府が個人情報を取得して感染症対策に役立てた方がいいと考える人もいるだろう。一方で、なるべくプライバシーを保護する形で感染症拡大を防いでほしいと考える人もいるだろう。

 考え方はさまざまだろうが、次のステップとして個人の権利の制限(プライバシー侵害)に進むことになる可能性はある。その前に、個人の自由とプライバシーを最大限尊重する現状の「接触確認アプリ」の可能性を最大限引き出してみるべきだ。

 今の日本政府(厚生労働省)が打ち出しているメッセージからは、率直に言って接触確認アプリを活用して感染症を抑え込む強い意志が感じられない。単なる準備不足、リソース不足、認識不足かもしれないが、接触確認アプリのプロモーション、説明、いずれも不足している。

 懸念点はまだある。接触確認アプリへの通知で濃厚接触者が判明しても、検査、隔離の特別な受け皿が用意されているわけではない。接触確認アプリの有識者会議では「接触確認アプリの利用者には、濃厚接触と分かったら優先的に検査を受けられるようにすれば、アプリ導入のインセンティブになる」との意見が出たと伝えられている。ただし、この案は見送られたという。医療機関や保健所の負担が増えることが理由だ。検査、治療、隔離の受け皿はアプリを普及させるインセンティブというだけでなく、感染拡大の「第2波」が来たときには真剣に必要となる。

 残念ながら、感染症拡大を防ぐために政府が打ち出す政策の中で今回の接触確認アプリの優先順位は高いとはいえない様子だ。改善してほしい点は多い。しかし政府の方針がどうであれ、AppleとGoogleの技術陣が最先端のプライバシー概念を駆使して作り上げたフレームワークがすでに存在し、そのフレームワークを応用して開発された接触確認アプリが私たちの目の前に存在している。

 大勢が使えば使うほど、このアプリは有用性が増す。そして、大勢がバグ、問題点を見つければ、それだけこのアプリの完成度、安全性は向上する。

 私たちは、自分たちの行動でどこまで新型コロナウイルス感染症と戦えるのか、今まで試されてきた。「接触確認アプリ」は新たな試練だ。このアプリを生かすも殺すも、私たちの自由な行動にかかっている。つまり、自分の意思でアプリを入れるか入れないかだ。

 だから皆さん、ぜひ接触確認アプリを入れましょう。

【訂正と付記:12:55 初出の記事では「仕様書通りに機能し、不自然な挙動(不必要な情報をサーバに送信するなど)も特になかった」と記載しましたが、誤解を招く表現だったため、日本ハッカー協会オンラインイベント参加者の技術者の方と話し合いのうえ差し替えました。「大きな問題はない」という結論は変わりませんが、「1メートル以内と判定するBluetoothの信号強度のしきい値」が不明なことから仕様を確認できたとはいえず、また「異常終了時に技術データを送信する」仕様がプライバシーポリシーに記載漏れという問題点が発見されました。】

筆者:星 暁雄

早稲田大学大学院理工学研究科修了。1986年日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社。『日経エレクトロニクス』『日経Javaレビュー』などで記者、編集長の経験を経て、2006年からフリーランスのITジャーナリスト。IT領域全般に興味を持ち、特に革新的なソフトウェアテクノロジー、スタートアップ企業、個人開発者の取材を得意とする。最近はFinTech、ブロックチェーン、暗号通貨、テクノロジーと人権の関係に関心を持つ。

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