アニメ版『ジョジョ』の総作画監督が指摘「Netflixで制作費が増えても、現場のアニメーターには還元されない」アニメ業界の「病巣」に迫る【後編】(3/5 ページ)

» 2020年07月17日 12時00分 公開
[伊藤誠之介ITmedia]
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アニメ以外で絵を描く仕事の可能性を模索している

――一方で西位さんは、個人として海外と直接お仕事をしているそうですが?

 私に関しては、クランチロール【※】の日本支社長だったビンス・ショーティノという人物が、マネジャーのような形で、海外で営業してくれているんですよ。ビンスはかなり顔が広いので、いろんなところに声をかけてくれていて。自分はそういう特殊な事情があって、ラッキーだっただけですね。

※クランチロール:日本のアニメやマンガを、200を超える海外の国に向けてオンライン配信をしている企業(ただし日本からはアクセスできない)。ビンス・ショティーノ氏は、2008年の日本法人設立時から代表取締役を務めていたが、17年に退任した

――ビンス・ショーティノさんとは、どういった形で出会われたのですか?

 アニメ以外の収入源をなんとか確保できないかと模索している時に、Anime Japan【※】の懇親会で紹介してもらったんです。

 ビンスはクランチロールの日本支社にいたので、日本アニメの製作委員会がどういうものなのか、よく知っているんですよ。それで「責任者がよく分からないのはイヤだ」と、彼自身もよく言っていて。海外だと誰が責任者なのか分かりやすいから、私にはそっちのほうが向いているんじゃないの、とは言ってくれています。

※Anime Japan:日本を代表するアニメ関連企業・団体が出展する、世界最大級のアニメイベント。毎年春に開催されているものの、「Anime Japan 2020」は新型コロナウイルスの影響で開催が中止された

――西位さん自身が、アニメ以外の収入を得ようと営業をかけていたんですか?

 はい。今から2年ぐらい前、『ジョジョ』と『はいからさんが通る』が終わった後ですね。じつは『はいからさん』をやっている最中に、制作に入っていた会社が倒産して、ストレスで死にそうになったんです。もうホントに、ツラいことしか起きなくて。

 そういうこともあって「このままだと夢がなさすぎる」と、アニメ業界に絶望して。それでアニメ業界以外の仕事も視野に入れてみようと、ゲーム業界の懇親会に出たりしていたんです。

――ゲーム業界のほうが、アニメよりも収入は良いんですか?

 働き方にもよると思いますけど、ゲームのほうが良いですね。ただ、私がその時に仕事をしたゲームは、けっこう簡単にペンディングになっちゃって。アニメ業界の場合は、お金が下りだしたら絶対に最後まで作るのに、ゲーム業界ではそれまでに数億円もつぎ込んでいたプロジェクトが、いきなり止まっちゃうので衝撃を受けました。それでもアニメ業界よりは稼げましたけど(笑)。

 そんなふうに、ツラいことが多くてどうしようかなと模索していた時期に、選択肢の1つとして出てきたのが海外ですね。

――西位さんは「BRAVE & BOLD(ブレイブ・アンド・ボールド)」というコミッションイベント【※】に参加していますけど、それもアニメ以外の営業活動の一環ですか?

※コミッションイベント:海外のコミック関連のイベントでは、アーティストがファンの注文に応じてイラストを有料で描くという「コミッション」(直訳すると「手数料」)の形式が採られていることが多い。近年は日本でも、こうしたコミッション形式でイラストを頒布するイベントが増えている

 「BRAVE & BOLD」に出始めた時は、そういうふうには思ってなかったんですけど。

 私の場合、お客さんと直接やりとりする場がコミケしかなかったんですけど、コミケはけっこう慌ただしいので。コミッションイベントって、今は依頼数が多くなって、事前に予約を受けたりしていますけど、最初はその場で依頼を受けて、その間にお話ししたりできたんですよ。

 ただそれも、絵を描くことそのものでギャランティーをもらうのがいいな、と思ったところは確かにありますね。

――いろいろと模索していたんですね。

 アニメ業界の知人には、「何してんの?」ってよく言われましたね。今でも言われますけど(笑)。

phot 西位さんのオリジナル漫画『ウロボロスの冠』

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