本稿では前回(リンク)に続き、中国政府が6月7日に発表した「新型コロナウイルスとの戦いにおける中国の行動白書」から2月下旬以降の動きを紹介する。中国の感染症対策の最前線を担ったのは、SARSで陣頭指揮に当たった専門家やアリババなどのIT企業だが、白書はそれらには一切触れず、習近平国家主席ら政府の行動と成果のみを描写している。
正直なところ、白書を読むだけでは全体像がほとんど分からないが、一点だけ、極めて明確なことがある。白書の主眼が、「全体像を示す」ことではなく、「政府の正しさを強調する」ことにある点だ。
中国ではハイレベル専門家グループが記者会見をした1月20日以降、情報公開の体制は世界が考えているよりもかなり透明だった。情報を下手に隠せば感染拡大につながるからだろう。国民が皆知っている専門家や企業の貢献をバッサリ切り落としたことで、白々しさが一層鮮明となっているが、それもまた、中国を知るための材料なのかもしれない。以下、退屈すぎる白書の内容を記載する。
2月21日 国務院が経済回復と感染症対策を両立させるためのガイドラインを公表。感染リスクの低い地域の移動制限の解除が始まる。2月24日までに、湖北省、北京市以外の主要道路の通行規制が解除される。
2月23日 習近平国家主席がビデオ会議を通じ17万人の党幹部に、新型コロナウイルスが建国以来もっとも感染スピードが速く、感染範囲が広く、対策が難しい公共衛生事件だとし、対策の徹底を指示する。
2月24日 中国と世界保健機関(WHO)の専門家が北京で共同会見。中国の感染症対策が功を奏していると評価する。24日までに1日あたりの新規感染者数は5日連続で1000人を下回った。
2月25日 出入国者に対する健康チェックを強化。
2月26日 習近平国家主席が会議で、全国では感染が収束に向かう一方、湖北省と武漢市の情勢は依然として厳しいと指摘。湖北省・武漢市の感染封じ込めに資源を投入するよう指示。
2月27日 湖北省以外の地域、そして武漢市を除いた湖北省での1日の新たな感染者がそれぞれ初めて2桁に減る。
2月29日 中国とWHOが共同で新型コロナウイルスの現地調査報告書を発表。報告書は中国が未知のウイルスに対し積極的に対応し、迅速にウイルスを抑え込んだと評価する。
3月2日 習近平国家主席が北京で新型コロナの対策状況を視察。
3月3日 国家衛生健康委員会が「新型コロナウイルスによる肺炎の診療ガイドライン(試行第7版)」を公表。感染経路、症状、診断基準などに新たな知見を加え、中国医療と西洋医療の融合を強調する。
3月4日 習近平国家主席が会議で、感染を抑えつつ経済・社会の正常化を目指す体制(日本でいうところの「新しい生活様式」)の確立を急ぐよう指示。
3月6日 習近平国家主席が、農村の貧困層の「全ての貧困からの脱出」に全力を尽くすよう指示。全国の1日の感染者が100人を割る。
3月10日 習近平国家主席が武漢市を視察。武漢市民の貢献を賞賛する。
3月11日 WHOのテドロス事務局長が、新型コロナウイルスが世界で大流行していると発言。
3月11日〜17日 全国の1日の新たな感染者が2桁にとどまる。中国での感染のピークは過ぎたと判断。
3月17日 全国から湖北省・武漢市に入っていた医療支援チームの撤収が始まる。
白書の「第3段階」は、中国の感染症対策の「答え合わせ」のステージと筆者は分析している。白書には記されていないが、ハイレベル専門家グループのトップを務めた鍾南山氏が2月初旬の感染ピーク時に「狙い通り収束させられるかは2月20日ごろ判断できる」と発言しており、第3段階の記述も同日から始まっている。
2月下旬からの1カ月は、ウイルスの封じ込めに自信を得た政府が、経済再開を模索した時期でもある。日本は同時期に感染拡大局面を迎えており、「感染のピークをずらす」戦術をとって時間稼ぎをしたものの、結局諸々の対策が間に合わず、4月に緊急事態宣言が発令されることとなった。
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