さて、創業家の智仁氏は、久実氏が亡くなった時に大戸屋の常務であった。香港の事業を担当する辞令が出て、いったんは了承したものの、半年後に辞任。将来の後継者の座は約束されていたが、平の取締役に降格されたことなどに不満があったとされる。
そして、高齢者施設に外食のメニューなどを宅配する、スリーフォレストという会社を興して社長となった。そのスリーフォレストの事業を通じて、コロワイドとは接点ができた。
智仁氏は「超高齢社会ニッポンを考える」という「週刊 高齢者住宅新聞」が20年6月に公開した動画で、「今後はコロワイドと協業して、大戸屋が高齢者施設で給食事業をする手伝いをしたり、大戸屋のメニューを高齢者に届けたりしたい」と語っている。
ここ5年間、大株主なのに大戸屋経営陣とは断絶状態だった。株を持っていても仕方がない。もっと智仁氏が考える創業者の想いを実現してくれる会社に、渡したほうが良いと考えた。話し合いを重ねて、コロワイドに売却したそうだ。
しかし、私の知る限り、コロワイドは創業者の想いを重視してきた会社ではない。牛角は、中途半端に「焼肉きんぐ」をまねているように見えるが不徹底だ。かっぱ寿司では、創業時から親しまれてきた河童の看板を無くしてしまう。「ステーキ宮」のジクトは会社自体がアトムに吸収されて跡形もない。
コロワイドは大戸屋を社員食堂、老人ホームの給食などに展開したいという。
コロワイドの弱点は、M&Aに頼りすぎたのと引き換えに、新しいブランドと価値を生み出す業態開発力を失ってきていることだ。外食首位のゼンショーホールディングスの第1ブランドは「すき家」、第2ブランドは「はま寿司」であり、いずれも自社開発であるのと対照的だ。
前出・鈴木氏は「コロワイドは改革に着手することができても、それが成功し、大戸屋の企業価値向上に結びつくかは分からない」と考えている。
大戸屋はアフターコロナを見据えて冷凍食品を開発し、小売りを開拓して反転攻勢に出ようとした矢先だった。大戸屋経営陣も改革を進めていたのだ。
大戸屋に奇跡の大逆転は起こせるのか。死んだふりして、ホワイトナイトを探しているのか。
蔵人会長執筆の件の社内報は、次の言葉で結ばれている。
「生殺与奪の権は、私が握っている。さあ、今後どうする。どう生きて行くアホ共よ」
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング