異色の高卒起業家が率いるEVメーカー「理想汽車」、理想を捨て実現したIPO浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(3/3 ページ)

» 2020年08月06日 16時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]
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テスラから乗り換えてくれたオーナーに感謝

 李想氏が次に名前を挙げたのは、VC「経緯中国(MatrixPartners China)」のパートナー張穎氏だ。李想氏によると18年末、理想汽車が資金難に陥ったとき、張穎氏の仲介で複数のファンドと交渉の機会を得て、1カ月も経たずに追加資金を手にしたという。

 19年に再度資金繰りが悪化した際、李想氏と李鉄氏は出資を求めて100社以上に接触したが、うまく行かなかった。その時張穎氏は、「手ごわいが金を持っている起業家を当たれ」と助言。李想氏は4人にコンタクトし、美団点評の王興CEOとTikTokの運営企業であるバイトダンス(字節跳動)の張一鳴CEOから資金を調達できたという。

 理想汽車に数度にわたって出資してきた王興氏は、今回の同社のIPOで投資家として評価され、両者にとってWin-Winとなった。

 李想が「感謝している人」として3人目に挙げたのは、「理想ONE」のオーナー郝一菲氏だった。テスラから理想ONEに乗り換えた同氏は、友人にも購入を勧め、郝一菲氏経由の購入者は100人を超えるという。

テスラの「Model 3」試乗車(19年5月、編集部撮影)

 李想氏はテスラのModel Sが上海に上陸した14年、中国本土の最初のオーナーの1人としてイーロン・マスクCEOから鍵を受け取っている。

 テスラは19年12月に上海工場を稼働させ、理想ONEと価格がそう変わらない「Model 3」の出荷を始めた。テスラのブランド力が突出する中であえて乗り換えてくれた1オーナーの名前を挙げたのは、テスラを追いかけて起業した李想氏自身が、誰よりも両社の力量差を分かっているからだろう。

筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37

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