上記では家計調査の統計値(平均値)から年間で4.4万円程度の負担軽減効果があると推定したが、実際にこの規模の負担軽減効果を得られるのは、全国民の半分以下にとどまるだろう。厚生労働省が公表している国民の世帯年収の中央値は427万円であり、家計調査の統計値よりも3割程度低い。少数の富裕層や高所得者層が統計値を押し上げることで、消費減税の負担軽減効果も3割程度上振れしている可能性がある。
生活が困窮すると、収入に占める食費の割合(エンゲル係数)が上昇する。食料品はかねてより軽減税率の対象となっていることから、8%の減税では生活困窮層は減税の恩恵に預かることが難しい。
つまり、消費減税の負担軽減の恩恵を最も受けるのはエンゲル係数が小さく、消費支出額の高い富裕層・高所得者ということになる。これでは「コロナ禍で苦しむ国民を救う」という消費減税の趣旨と真逆の結果になりそうだ。
消費減税には小売店での表示変更対応やシステム改修といった社会的な対応コストも大きくなる可能性があるが、実施のためにかかるコストはこれだけではない。
消費増税に駆け込み需要増があるとすれば、消費減税という政策は減税までに需要の減少をもたらす。消費税の減税には関連するさまざまな法令の改正が必要であり、それまで財布の紐を固く閉じていた消費者が減税までの数カ月間、いっそう消費を控えるおそれがある。
ひとたび減税されれば消費額が増加する可能性こそあるものの、コロナ禍における要支援対象はキャッシュフローがおぼつかない企業や個人事業主ではないか。コロナ倒産例が緊急事態宣言後から月間100件程度の高い水準で推移し続けている点も踏まえると、キャッシュフローが危うい企業に、需要が増加するまでの数カ月間、手控えによる需要減を耐えるように仕向けることはいささか酷だ。
また、減税までの手控えは、マイナポイントやGo Toトラベルなどとといった既存の需要喚起策とバッティングし、これらの施策の効果も減少させる。
これらを踏まえると、消費減税はコロナ禍中における支援策としてはややスマートさを欠いている。それでは、これらの問題を解決するアプローチは他にないだろうか。
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消費税は弱者に厳しいというウソ 〜逆進性という勘違い〜Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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