6月10日、米国の電気自動車大手のテスラ・モーターズが時価総額でトヨタ自動車を上回り、時価総額としては世界一の自動車メーカーとなった。テスラの時価総額はおよそ20兆円となり、トヨタに1兆円近く差をつけている状況だ。
しかし、名実ともに世界一かといわれると、いまだ肯定できるとはいえない。2020年第1四半期のテスラ車販売台数はわずか8.8万台で、直近におけるトヨタの268.5万台と比較してもごくわずかな数字だ。販売台数という”実”が伴っていないにも関わらず、テスラの時価総額がトヨタを超えたのはなぜだろうか。
時価総額の大部分を占める要素は「企業価値」にある。企業価値とは、そもそもその企業が生み出すと考えられる将来のキャッシュフローを、現在の価値に直した場合の会社の価値だ。販売台数と時価総額のギャップは、収益に対する株価の倍率であるPER(株価収益率)から比較できる。例えば、PERが100倍の時、その会社に投資した資本の回収に100年かかる水準であるという計算となる。
テスラの予想PERはおよそ253.5倍だ。一方で、トヨタ自動車のPERは9.48倍。これは奇しくも販売台数のギャップがほぼそのままPERのギャップとして現れていることになる。
ただし注意するべきは、「PERが253.5倍であるから割高である」というわけではない。なぜなら、本質的に異なる企業をPERという指標だけで単純比較することは不可能だからだ。
PERの逆数は「株式益利回り」と呼ばれる。例えばPERが10倍の場合、これを利回りに換算すると10%となる。これを国債などと比較してみよう。日本国債の30年物の利回りは0.58%である。この利回りで投下資本を回収できるのは、約172年後である。つまり、日本国債をPER的に見ると、172倍となる。それでは、ハイリスクな金融商品とされているトルコリラをPER的にみるとどうだろうか。トルコリラの政策金利は8.75%であるため、投下資本を回収するには11.42年だ。PER的にみると、トルコリラは11.42倍となる。
一般的に低リスクといわれる日本国債が172倍で、ハイリスクといわれるトルコリラが11.42倍であることから考えると、PERが高いことが割高と言い切ることは難しいだろう。
日本国債の172倍が割高となり得る根拠は、「172年以内に日本国がデフォルトするか」という要素で決定されるべきであるからだ。一方で、トルコリラの11.42倍が割高になる根拠は「11.42年以内にトルコリラの価値を大幅に毀損(きそん)する事由が発生するか」という要素で決定される。つまり、PERを比較することは、日本国のデフォルト確率とトルコのデフォルト確率という全く異なるものを比較しており、無意味なことであるということだ。このように、異なるものや企業をPERで比較するべきではない。
これと同様に、ビジネスモデルや経営者の能力といったさまざまな要素が異なる企業同士を、PERのみで単純比較することは無意味となるだろう。そう考えると、テスラのPERを他の電気自動車企業と比較すること自体も本質的ではない。それでは、テスラについた時価総額の根拠はどのようにして測るべきだろうか。
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