ベールに包まれた宇宙ビジネス、夢見る起業家の勝機はどこに?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)

» 2020年06月12日 07時05分 公開
[古田拓也ITmedia]

 米SpaceXの「クルードラゴン」が5月31日に、民間企業としては初の有人宇宙飛行を成功させた。同社を率いるイーロンマスク氏をはじめとして、AmazonCEOのジェフ・ベゾス氏や、国内では堀江貴文氏といった著名な起業家が、宇宙を次のビジネス機会と捉えている。

 しかし、一般的に想像しやすい民間人の宇宙飛行、宇宙旅行といったビジネスだけでは、開拓できる市場は「ハイクラスな旅行産業」止まりとなってしまう。これでは各国の有力な起業家が参入するような魅力ある市場とはいえないだろう。それでは、宇宙ビジネスのいかなる点にチャンスがあるのだろうか。今回は、そんな謎の多い宇宙ビジネス市場の構造を確認していきたい。

5月31日に国際宇宙ステーションISSに向かって打ち上げられたSpaceXのロケット「Falcon9」。新型宇宙船クルードラゴンを搭載している(写真 ロイター)

30年後には200兆円市場になる?

 NTTデータ経営研究所が、モルガン・スタンレーの市場予測などを基に算出した宇宙ビジネスの市場規模は、グローバルで2050年に約200兆円に達するという推計となった。経済産業省が昨年発表した国内のBtoC-EC市場の規模が、18年で17兆9845億円。前年比の伸び率8.96%から考えると、20年には20兆円を超える市場となっているだろう。単純比較はできないが、概ね今の国内EC市場の10倍ほどの市場が今後生まれてくるという規模感となる。

 実は、この「200兆円市場」の過半を占めるのが、人工衛星の普及による二次的市場だ。人工衛星のカバレッジが高まることによって世界規模でネットが普及し、SNSやオンライン広告といったプレーヤーが間接的に恩恵を受けると推定されている。この二次的な宇宙市場が117.6兆円の規模になると想定されている。

 しかし、宇宙に直接関わる、いわゆる「真水」の宇宙ビジネス市場の規模は83.1兆円程度で、成長率は足元の2.2倍程度という控えめ目な推計となっている。それでも、40兆円近い市場が将来新規に創出されていくと考えれば、起業家や投資家にとっては大変魅力に移るサイズのマーケットだ。

 この真水部分には、ロケットや人工衛星、発射基地などの地上設備といったセグメントが含まれるが、いずれも年次の平均成長率は1ケタ台で、緩やかな成長度合いとなっている。「宇宙機器産業」と呼ばれるこれらのセグメントは、第二次世界大戦後から各国の政府主導で継続的に開拓されてきた伝統ある市場である。したがって、この部分については比較的控えめな成長率で推移するという推計にもうなずける。

 それでは、この真水における宇宙ビジネス市場において、一段と伸びが期待されているのはどのような分野だろうか。それは人工衛星を活用した地球観測分野である。人工衛星から得られる膨大なデータを、AIなどによるビッグデータ解析にかけることで、さまざまな産業のデータ経営を後押しすることが期待されている。代表格となる産業は「金融」と「農業」だ。

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