ホリエモンが北海道で仕掛ける「宇宙ビジネス」の展望――くだらない用途に使われるようになれば“市場”は爆発する「世界一の環境」が埋もれてしまっている(1/3 ページ)

» 2020年05月09日 05時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 ホリエモンこと堀江貴文氏が出資する北海道大樹町の宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)が5月2日に予定していた小型ロケット「MOMO5号機」の打ち上げを延期した。新型コロナウイルスの影響を重くみた大樹町が要請して決定された今回の延期は、ISTにとって大きな痛手となった。

 延期は関係者にとっては苦渋の決断だったものの、北海道は引き続き宇宙ビジネスを進めていく上での優位性を持っており、期待は大きい。そのことを示したのが、2019年10月に札幌市で開かれた「北海道宇宙ビジネスサミット」だ。宇宙ビジネスの現状や将来像を議論しようと、北海道を舞台にしたビジネスやカンファレンス、イベントなどを実施する「NoMaps」主催の「NoMaps2019」のセッションの1つとして開催された。

 登壇したのは、日本で民間企業として初めて小型ロケットの宇宙空間飛行に成功したISTの稲川貴大社長と堀江貴文取締役、北海道大学発ベンチャーのポーラスター・スペースの三村昌裕社長、日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」を運用するさくらインターネットの田中邦裕社長。北海道で宇宙ビジネスを展開する企業の代表が結集した。

 ゲストとして、宇宙開発に知見が深い北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授も参加。宇宙ビジネスの関係者をつなぐ活動をしているSPACETIDEの佐藤将史理事兼COOがモデレーターを務め、なぜいま宇宙ビジネスなのか、北海道で展開することの利点などについて議論した。その模様を伝える。

phot 堀江貴文 1972年福岡県八女市生まれ。実業家。SNS media&consultingファウンダーおよびロケット開発事業を手掛けるインターステラテクノロジズのファウンダー。現在は宇宙関連事業、作家活動のほか、人気アプリのプロデュースなどの活動を幅広く展開。2019年5月4日にはインターステラテクノロジズ社のロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機(MOMO3号機)」が民間では日本初となる宇宙空間到達に成功した。2015年より予防医療普及のための取り組みを開始し、2016年3月には「予防医療普及協会」の発起人となり、協会理事として活動。予防医療オンラインサロン「YOBO-LABO」にも携わる。著書に『健康の結論』(KADOKAWA)『むだ死にしない技術』(マガジンハウス)『ゼロからはじめる力 空想を現実化する僕らの方法』(SBクリエイティブ)『スマホ人生戦略』(学研プラス)『捨て本』(徳間書店 )など多数(以下、写真はNoMaps提供)

なぜいま宇宙ビジネスなのか

 「北海道に築く宇宙産業のエコシステム」をテーマに開催されたカンファレンスには、300人以上の聴衆が詰めかけた。北海道の宇宙ビジネスのキーマンが揃(そろ)って登壇したこともあり、関係者の関心の高さがうかがえた。

 モデレーターの佐藤氏は、日本の宇宙開発が政府主導からベンチャーに広がり、国内では現在30社から40社のベンチャー企業があると紹介。その上で登壇者に、なぜいま宇宙ビジネスが必要だと考えているのかを聞いた。

 最初に答えたのは稲川氏。ISTは北海道大樹町で19年5月4日、小型ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機(以下、MOMO3号機)」の打ち上げに成功。日本の民間企業で初めて宇宙空間飛行を実現した。稲川氏は「ロケットの打ち上げを見ると感動します。それが私自身の宇宙ビジネスのモチベーションの1つです」と話し、世界一低価格で便利なロケットを作ることによって、宇宙に人工衛星などの荷物や人を運ぶインフラづくりを実現したいとビジョンを語った。

phot 稲川貴大 インターステラテクノロジズ社長。1987年生まれ。東京工業大学大学院機械物理工学専攻修了。学生時代には人力飛行機やハイブリッドロケットの設計・製造を行なう。修士卒業後、インターステラテクノロジズへ入社。2014年より現職。経営と同時に技術者としてロケット開発のシステム設計、軌道計算、制御系設計なども行なう。「誰もが宇宙に手が届く未来を」実現するために小型ロケットの開発を実行。日本においては民間企業開発として初めての宇宙へ到達する観測ロケットMOMOの打上げを行った。また、同時に超小型衛星用ロケットZEROの開発を行なっている

 続いてさくらインターネットの田中氏は、宇宙ビジネスには「衛星を打ち上げる」「衛星を作る」「データを活用する」といった3つの側面があると解説。宇宙から収集したデータを無料で公開するプラットフォーム「Tellus」を自社で展開していることを紹介し、複数のデータを組み合わせることによって今まで見えなかったことが見えてくるといった「データを活用する」ことの将来性について言及した。

phot 田中邦裕 さくらインターネット社長。1978年、大阪府生まれ。1996年に国立舞鶴工業高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業。当時国内ではまだ珍しかった共有ホスティングサービス(さくらウェブ)を開始。1999年にはさくらインターネット株式会社を設立し、月額129円から始められる低価格レンタルサーバ「さくらのレンタルサーバ」の開発に自ら関わる。その後、最高執行責任者などを歴任し、2007年より現職。インターネット業界発展のため、各種団体に理事や委員として多数参画。2011年11月に、北海道石狩市に「石狩データセンター」を建設

 ポーラスター・スペースの三村氏は、特殊なカメラを搭載した超小型衛星をすでに5基打ち上げていることを説明。オイルパームなどの農作物の病害を防ぐため、衛星データを活用して病害を特定する取り組みを紹介し、宇宙ビジネスによって農業問題を解決することへの熱意を語った。

phot 三村昌裕 ポーラスター・スペース 代表取締役。東京工業大学大学院博士前期課程修了。課題解決型事業創造とテクノロジーを梃とした企業戦略支援を目的として三村戦略パートナーズを設立(現、株式会社フューチャーアクセス)。多くの上場企業の次世代戦略や新規事業創造及びベンチャー企業の立上やIPOに携わる。2017年4月、リモートセンシング技術を活用したデータソリューション事業を志向して株式会社ポーラスター・スペースを設立。北海道大学発ベンチャーとして北大の研究成果の社会実装を担う。2019年、経済産業省によりJ-Startupに選定される
phot 聴衆の様子
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