クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタの決意とその結果池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2020年08月10日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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勇気づけられる決算のスピーチ

 トヨタ首脳陣のスピーチと質疑応答を、筆者は新しく始めたYoutubeチャンネル「全部クルマのハナシ」のメンバーと一緒にリモートでシェアして見ていた。スピーチが終わった時「いやトヨタかっこいいね」「いいものを見せてもらった。グダグダなスピーチ(主に行政のコロナ対応)ばっかり見せられていたので、とても勇気づけられた」とひとしきり感想を述べ合った。それが普通の反応だと思う。疑う人は、少し長いが自分自身の目で確認して欲しい。リンク先の決算説明会II部の動画だ。

 さて、第1四半期の結果はどうだったのか? 前年同期と比べると、連結販売台数が231万8000台から115万8000台と半減した。営業収益は7兆7212億円から4兆6007億円へダウン。営業利益に至っては7406億円から139億円に激減している。営業利益率は9.6%から0.3%。確かに凄まじい爪痕である。

コロナ禍が直撃した4-6月の販売台数は半減した(トヨタ決算資料より)

 しかしながら、われわれひとりずつの4-6月の生活はどんなものだったかを思い出して欲しい。1929年の世界恐慌は3年かかって景気が失速していったし、リーマンショックでさえ、2年越しでの収縮だった。しかしコロナでは、ある日突然巡航速度から速度ゼロへと急停止した。誰も受け身も取れていなかったし、準備も対策を用意する暇もなかった。その中で黒字決算が出ることなど誰も予想していなかったはずである。少なくともプロでこれを当てたら、むしろプロとしての常識を疑われるような結果だ。

販売台数が半減したことで、四半期で8100億円もの営業利益マイナス影響を受けながらも、営業利益は黒字を確保した(トヨタ決算資料より)

 トヨタの利益は薄氷を踏むようなギリギリのプラスだったことは事実だが、ここをプラスで乗り越えたことは大きい。もしも赤字であったなら、徐々に回復していく売り上げで、その穴を補てんしていかなくてはならない。筆者も一応経営者の端くれなので、赤字の埋め戻しがどれほど大変なことかは痛切に味わってきた。出血を止めるだけでも大変なのに、マイナスを埋める作業は、ただ普通に戻るためだけにする賽(さい)の河原の石積みのようなものだ。だからトヨタがこの環境下で微々たるものとは言え、黒字の結果を出したことの重さはよく分かる。

 ヤリスが売れた、RAV4PHVが売れた、ハリアーが売れた。それらも大きな要因だが、それはたまたまではない。もっといいクルマづくりをコツコツと積み重ね、原価改善を営々と繰り返し、そういう総合力で、勝ち取った結果をわれわれはもっと評価すべきだと思う。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、Youtubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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