第一に、パンデミックの収束も、社会に与える影響の最終的な大きさも不明な中、算出が極めて困難である。第二に、おそらくはどこも見通しを出さないので、トヨタが出さなくても誰も不思議に思わない。むしろ発表する理由がないように思えた。
デメリットならいっぱいある。まず仮に見通しが甘く、下方修正を余儀なくされるようなことがあれば、事態の深刻さに対する不明で経営陣の進退問題にだって発展しかねない。そして見通しを見誤った場合はトヨタが風を読めていないイメージを喚起し、企業のプレゼンスに傷が付くおそれすらある。経営者にとって、損しかない選択肢である。
筆者がなぜだ? と思ったその答えはスピーチと質疑応答の中にあった。トヨタは、日本人全体が萎縮し、あるいは絶望し、不安の中で暮らす日々に対して、自らが黒字決算を出してみせると宣言することで、エールを送ったのだ。われわれは戦い続け、そしてコロナに負けない。だからみなさんもそれぞれの持ち場で、元気と勇気を出して共に戦ってください。それこそがトヨタがこの決算に込めたメッセージであった。
ちなみにこの時点でトヨタは、販売台数のダウンを195万8000台(21.9%減)と想定していた。リーマンショックの時のマイナスが135万台(15%減)であったことと比較すると、状況はより厳しいことが一目で分かる。もしトヨタの基礎体力が当時のままなら、普通に予測して1兆円オーバーの赤字になるはずである。
しかしながら、トヨタは5000億円のプラス見通しを発表した。なぜそんなことができるのか。それはトヨタが必死に積み上げてきた原価改善の努力とTNGAによる強靭(きょうじん)化が成果を上げたからだ。リーマンショックで赤字に沈んだことをトヨタは深く反省した。
- 象が踏んでも壊れないトヨタの決算
リーマンショックを上回り、人類史上最大の大恐慌になるのではと危惧されるこの大嵐の中で、自動車メーカー各社が果たしてどう戦ったのかが注目される――と思うだろうが、実はそうでもない。そして未曾有の危機の中で、トヨタの姿は極めて強靭に見える。豊田社長は「トヨタは大丈夫という気持ちが社内にあること」がトヨタの最大の課題だというが、トヨタはこの危機の最中で、まだ未来とビジョンを語り続けている。
- トヨタの改革に挑む叩き上げ副社長
これまであまり脚光が当たることがなかったトヨタの「モノづくり」。ところが、潮目が変わりつつある。先の決算発表の場に河合満副社長が登場したのだ。河合氏は生産現場から叩き上げで副社長にまで上り詰めた人物。現場のラインに長年従事していた叩き上げならではの知見を生かした改革が今まさに生産現場で始まっているのだ。
- トヨタの大人気ない新兵器 ヤリスクロス
ついこの間、ハリアーを1カ月で4万5000台も売り、RAV4も好調。PHVモデルに至っては受注中止になるほどのトヨタが、またもやSUVの売れ筋をぶっ放して来た。
- ハリアーはアフターコロナのブースターとなるか?
多くの読者はすでにハリアーが今年の大注目モデルであること、そして売れ行き的にもとんでもないことになっていることをご存知のことと思う。7月17日にトヨタから発表された受注状況は、それ自体がちょっとしたニュースになっている。
- RAV4 PHV 現時点の最適解なれど
トヨタはRAV4 PHVを次世代システムとして市場投入した。世間のうわさは知らないが、これは早目対応の部類だと思う。理由は簡単。500万円のクルマはそうたくさん売れないからだ。売れ行きの主流がHVからPHVへ移行するには、PHVが250万円程度で売れるようにならなくては無理だ。たった18.1kWhのリチウムイオンバッテリーでも、こんな価格になってしまうのだ。まあそこにはトヨタ一流の見切りもあってのことだが。
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