クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタの決意とその結果池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2020年08月10日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

リスクを取っても予想公表 決算に込めたメッセージ

 第一に、パンデミックの収束も、社会に与える影響の最終的な大きさも不明な中、算出が極めて困難である。第二に、おそらくはどこも見通しを出さないので、トヨタが出さなくても誰も不思議に思わない。むしろ発表する理由がないように思えた。

 デメリットならいっぱいある。まず仮に見通しが甘く、下方修正を余儀なくされるようなことがあれば、事態の深刻さに対する不明で経営陣の進退問題にだって発展しかねない。そして見通しを見誤った場合はトヨタが風を読めていないイメージを喚起し、企業のプレゼンスに傷が付くおそれすらある。経営者にとって、損しかない選択肢である。

 筆者がなぜだ? と思ったその答えはスピーチと質疑応答の中にあった。トヨタは、日本人全体が萎縮し、あるいは絶望し、不安の中で暮らす日々に対して、自らが黒字決算を出してみせると宣言することで、エールを送ったのだ。われわれは戦い続け、そしてコロナに負けない。だからみなさんもそれぞれの持ち場で、元気と勇気を出して共に戦ってください。それこそがトヨタがこの決算に込めたメッセージであった。

 ちなみにこの時点でトヨタは、販売台数のダウンを195万8000台(21.9%減)と想定していた。リーマンショックの時のマイナスが135万台(15%減)であったことと比較すると、状況はより厳しいことが一目で分かる。もしトヨタの基礎体力が当時のままなら、普通に予測して1兆円オーバーの赤字になるはずである。

 しかしながら、トヨタは5000億円のプラス見通しを発表した。なぜそんなことができるのか。それはトヨタが必死に積み上げてきた原価改善の努力とTNGAによる強靭(きょうじん)化が成果を上げたからだ。リーマンショックで赤字に沈んだことをトヨタは深く反省した。

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