長期的に円高の可能性はあるかKAMIYAMA Reports(3/3 ページ)

» 2020年08月11日 14時24分 公開
[神山直樹日興アセットマネジメント]
日興アセットマネジメント
前のページへ 1|2|3       

構造的に円安の可能性も低いとみる:為替を分散しておきたい理由

 長期の米ドル(対円)の推移をみると、スミソニアン体制から変動相場制への移行を経て、360円が80円割れまでの円高となった。バブル崩壊後からの米ドル(対円)は100円を中心に、世界景気が強いほど米ドル高、弱いほど円高の傾向となっていたが、2000年代に入って、80円から120円の範囲で推移している。

米ドル(対円)の長期推移

 日米の潜在成長率の収れん、物価・金利格差の縮小などで、米ドル(対円)が推移する範囲は今後もあまり変わらないと考える。

 最後に、投資の観点から、米ドルについて考えをまとめておく。為替は二つの国・地域の相対的な経済状態(インフレ率格差、成長率格差など)に依存して決まる。先進国同士の場合、期待インフレ率が高く金利が高い国の通貨は、長期的には減価(低下)すると想定される。金利格差は為替で調整される(金利が高い国の通貨を預金して高金利を享受すると、その後為替が下落することで価値が一定となる)はずだ。原理的には、米ドル(対円)は長期投資のリターンの源泉にならない。

 現実には、高金利通貨が(クレジットが同じ程度でも)為替ですべて相殺される傾向は歴史的にあまり強くなく、金利差が十分あれば、高金利通貨のバリュー効果によるリターンが期待できる。ただし現状の日米金利差は十分に大きいとは言えない。新興国通貨の場合、工業化・生産性向上があれば、為替増価(上昇)をもたらすことが期待されるので投資対象となるが、米ドルには当てはまらない。人々の努力や工夫を信じて株式に投資したり、元本保全を期待して債券に投資する長期投資においては、為替変動でポートフォリオのリターンが大きく動くことがないよう、十分に分散させることが望ましい。

筆者:神山直樹(かみやまなおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。

KAMIYAMA View チーフ・ストラテジスト神山直樹が語るマーケットと投資


前のページへ 1|2|3       

© Nikko Asset Management Co., Ltd.