JALの大幅減収決算が示唆、コロナ影響はリーマンショックの2倍以上?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2020年08月14日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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 JALの20年第一四半期決算を確認すると、営業費用のうち、燃油費が前年比69.5%減の194億円と急減しており、全体では1250億円も営業費用が圧縮されていることが分かる。リーマン時の09年の第1四半期決算における燃油費が前年比で10.5%減であることを考えると相当なコストの圧縮に成功しているようにも見える。しかし、価格変動による影響を減らすためにヘッジがかけられている関係で、原油市況の下落が燃油費に及ぼす影響は限定的であるはずだ。

 現にリーマンショック時には、08年4-6月の1バレル141.2ドルから、翌09年4−6月には1バレル58.8ドルまで原油が下落した。しかし、このような市況要因をもってしても当時のJALにおける燃油費は1割程度しか圧縮されなかったのだ。

 コロナ禍における原油価格は1バレル60ドルから足元42ドル程度までの下落であることを考えれば、今回の事例でも市況要因における燃油費の圧縮分は10%未満であると推定される。そうすると、残りの圧縮部分は原油市況ではなく航空需要の喪失によってもたらされた、いわば不健全なコストの縮小ということになる。

 それでは、09年と20年でJALの売上高はどのような違いがあるのだろうか。JALの航空事業の中心である「国際旅客」事業の売り上げは前年の1306億円に対してわずか27億円。前年同期比で97.9%減という衝撃的な数値となった。全体の売上高をみても、前年同期が3488億円であったのに対し、今期は763億円と78.1%減、4分の1以下の水準まで落ち込んでいる。

 ここで09年の第一四半期の売り上げをみると、売上高は前年同期比で32.0%減の2909億円にとどまっていた。ここから考えると、コロナショックが航空業界に与えているインパクトはリーマンショックの2倍以上であるといっても過言ではない。

航空機が安全でも客足は戻らない?

 冒頭でも触れた通り、空運業界は航空機の安全性を強調する傾向にある。確かに、不特定多数が利用する航空機において、消毒や密の解消といった各種対策を取ることは効果的で、社会的責任を果たす上でも意義のある取り組みである。しかし、それは本質的ではなくアピールポイントとしてはやや心もとないという感想が筆者の正直なところである。

 顧客は航空機での感染リスクではなく、旅先で感染を広げてしまうことや、旅先で感染することを嫌うために航空機の利用を控えている。そうすると、空運業の客足を左右するのは、航空機の感染リスクの多寡よりも、むしろ国内外の感染動向に依存する。これは各航空会社の対応だけで解決できる範囲を超えており、このままでは再び国の巨額な支援に頼らざるを得なくなる可能性がある。

 つまり空運業界も飲食などの他業種と同様に、特定の外部要因によって大幅に収益が落ち込み得る業態であり、航空事業のみに頼ることはリスクが高いとみることも不合理ではない。現在事業ポートフォリオの見直しに加えて、本業たる空運事業のみに依存しない収益基盤を、非航空事業で創出することも株主から求められてくる可能性がある。競合のANAホールディングスはノンエア事業と呼ばれる非航空事業セグメントにも力を入れており、この部分の成長も同社の中期的な戦略の1つに数えられている。

 本業以外の収益の柱を持つことは、コロナの例に限らず、特定の外的要因に業績が大きく左右されにくくなる点で有効な策となり得るだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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