この問題は視点によって見える景色が変化する。Epic Gamesが訴える「Apple/Googleが設定するアプリ内課金の手数料が高すぎる」「独自の決済手段によるアプリ内課金を認めないというAppleのルールは優越性の濫用」という視点だけを見れば、強引ではあるものの納得できないこともない。
このゲームのファンにプロパガンダ映像を見せた上で、「Appleがただデジタルデータを配信するだけで価格の3割を持っていくのは不当だ。もし自分たちの主張が認められれば、ゲーム内アイテムを安価に買える」と主張し、実際に2割お得な価格設定を提示したとすれば、Appleを仮想敵と見立てるプレーヤーも出てくるだろう。
その上、Fortniteとは本来無関係なはずの他社のUnreal Engine採用ゲームにまで影響を及ぼす処分を下すなら、それこそAppleの横暴である。Epic Gamesの描いたシナリオ通りの景色がプレーヤーに見えていても不思議ではない。
しかし問題をApple/Googleによるアプリ削除、Appleによる開発者アカウント凍結警告に絞るならば、Epic Gamesは2018年からずっと従前の条件でFortniteを配信してきた。つまり、Appleとの契約を承服してきたことになる。
もちろん、Appleが求める契約が著しく不公平で自らの立場を利用して対応を強制していると判断されるなら、契約の有効・無効に関してEipic Gamesにも主張を争う余地があるかもしれない。Epic Gamesは、AppleのみがiOSアプリの配信権を持つ強制力によって、3割の高率な手数料が必要になると主張する。
ところが、本当に3割というマージンが高率なのかといえば、実はソニー、Microsoft、任天堂の“ゲーム機御三家”も3割。さらにはPCゲーミングで標準となっているSteamも(売り上げ条件で変化するが基本は)3割だ。
ここまで全体を把握すれば、Epic Gamesの意図が見えてくる。Appleが開発者向けの利用規約を見直してしまうと、ストアに登録する全ての開発者に影響を与えてしまうため、到底、承服できない。言い換えれば、それが分かっているからこそ、(規定通りの)開発者アカウント停止までのストーリーで、3億5000万登録ユーザーのバックアップを求める作戦に出たのだろう。
Unreal Engineを人質に、AppleがEpic Gamesに圧力をかけているように見えるが、人質に取っているのはAppleではなく、Unreal Engineを闘争のシンボルとしてFortniteプレーヤーやUnreal Engineを採用するゲーム(あるいはそのファン)をたきつけているEpic Gamesというのが筆者の見方だ。
Fortniteがプレイされているのは主にPCと各種ゲーム専用機で、モバイルユーザーはごくわずかにすぎない。Epic Gamesとしては、ここで一つ大きなノイズを作り、議論を深めた上でデジタルコンテンツの手数料についての共通認識を変えていきたいと考えているのかもしれない。
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