成功した一発以外は“多産多死” チャイナ・イノベーションのスピード感を支える「野蛮な戦略」とは?プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション (4/5 ページ)

» 2020年08月31日 05時00分 公開
[澤田翔ITmedia]
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エンジニアになるためのハードルが低い

 グローバルでリリースされているアプリは、極めてハイレベルな開発ツールとオープンソースのライブラリを使っている。極言すると、アマゾンやグーグルと、たった一人しかエンジニアがいないベンチャーも同じツールを使ってアプリを作っているし、そうするのが理想だと教えられる。その理想を守ってプログラミングすれば、保守も楽だし、拡張性も高い。後から他のエンジニアがジョインしても作業がしやすい。

 良いことずくめに思えるが、たった一人のベンチャーでも、ITジャイアントと同じレベルのエンジニアリングスキルが要求されている、というハードルの高さがあるともいえる。優秀なエンジニアを雇える大企業ならいざしらず、ベンチャーや中小企業では人材の獲得が大きなボトルネックとなってしまう。

 一方、中国では能力にかかわらず、まずは動くプログラムを作ることに専念していることが多いようだ。その傍証となるのがアプリのクレジット表記だ。中国のアプリを見ると、ほとんどのアプリにはどのようなオープンソースのライブラリを使ったかというクレジットが表記されていない。知的所有権の観点からはまずい状態だが、そんなことすら気にせずにひたすら動くものを作っているようだ。創業間もない企業はもちろん、ユニコーンクラスまで成長しても、まだ表記を欠くことも多い。

 もう1つ、Webサービスでつきもののクラウドサービスにも、中国は特徴がある。アリババクラウドやテンセントが提供しているサービスの主力は、サーバ丸ごと貸し。まるで5年前、10年前に日本で流行(はや)ったレンタルサーバのような形態だ。開発者の手元にあるPCと同じやり方で動かせる、テンプレートのサーバを少しいじるだけでお手軽に運用できる、そうした点が重視されているようだ。

 中国にはエンジニア・ボーナスという言葉がある。エンジニアの数の多さが今後中国の競争力を高めるという意味だ。なぜ中国にはエンジニアが多いのか。人口の多さと社会主義国ならではの理数系教育重視という背景から理解されてきた。だが、そこに加えて、エンジニアになるためのハードルの低さがあるのではないか。

 アドホックモデルの開発ならば、スキルが低くてもどうにかなる。日本ならば仕事ではなく趣味のプログラミングといわれるようなスキルでも、ビジネスに投入されている。もしにっちもさっちも行かなくなったら、またゼロから作ればいいではないかという、雑さというか、割り切りがあるわけだ。これが裾野(すその)の広さにつながっている。

中国にはエンジニア・ボーナスという言葉がある。エンジニアの数の多さが今後中国の競争力を高めるという意味だ

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