「まず、手を動かす」ことが時代を制した。現代は、頭でっかちに計画を立てるよりも、手を動かして試作品を作る「プロトタイプ」の考え方が奏功し、「まずは手を動かす」人や企業が勝利する時代だ。そして、先進国か新興国かを問わず、“プロトタイプ駆動”によるイノベーションを次々と生み出す場、いわば「プロトタイプ・シティ」が誕生し、力を持つ状況になっている。
その代表例が、近年、急速に一般からも注目を集めている中国の都市・深センである。中国のITジャイアントの一角であるテンセントが「未来都市」を建設する計画を明らかにしたが、その場こそが深センなのだ。ではなぜ、深センは世界の耳目を集め続ける「プロトタイプシティ」に変われたのか?
新刊『プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション 』(KADOKAWA)より抜粋記事をお届けする。第1回目【バイドゥ、アリババ、テンセント……「ITジャイアント」生み出した中国企業に学ぶ“超高速ビジネスの作り方” 】では、中国企業の新規事業立ち上げの根底にある「スピード感と軽さ」についてレポートした。今回の2回目は、中国のイノベーションを支える戦略や、ITジャイアントのテンセントにも影響を及ぼしている開発手法「アドホックモデル」の利点に迫る。
ソフトウェアでもハードウェアでも、非連続的価値創造の時代に適合的な手法が勝ち、そうした手法を取り込みやすい国が成長している。中国と米国はその意味で似ているところも多いが、中国独自の手法もある。中国企業がどのようにして「軽さ」を実装しているのか? この謎を解こうと私もいろいろ勉強したが、印象的なエピソードがある。
ソフトウェアエンジニア向けの勉強会に参加した時、テストはどうしているのかと、他の中国人参加者に聞いた。ここをどう処理しているか把握できれば、ソフトウェア開発体制のキモは把握できるからだ。ところが返ってきた答えは衝撃的だった。
「上司にソフトウェアの品質テストをどうするか聞いたんだが、『新しい機能が動くかどうかのテストをする前に、新しい機能が世の中に受け入れられるかのテストのほうが重要』って言われたんだよ」
一般的に、ソフトウェアの開発手法にはウォーターフォールとアジャイルという二大潮流がある。ウォーターフォールとは、着手時にプロジェクト完成までの全体仕様とスケジュールを規定し、ドリルダウンして進めていく方式だ。歴史は古いが、現在でも航空宇宙、防衛、金融などの大型基幹システム開発に使われている。
弱点としては最初に計画の全体をプランニングするのだが、果たしてリリース時の市場ニーズに合致しているものなのか、長い開発期間に計画がニーズとかけ離れたものになりかねないという課題がある。
例えば、リチウムイオン電池など、今後長期にわたりニーズが約束されているプロダクトであれば、長期的計画に従ってプロジェクトを遂行しても大丈夫だろう。だが、前述のAI(人工知能)、5G、IoT(モノのインターネット)などユースケースが手探りの分野では、製品が完成する頃には市場価値が低いプロダクトになっている可能性がある。全体の計画を描くプロセスに高い能力と将来を予見する力が求められる。
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