菅首相が官房長官時代から問題視してきた携帯電話料金について、仮に値下げが行われるとすれば、株式市場からみると良い面と悪い面がある。良い面は、国民の多くが保有している携帯電話の料金が下がることが、いわば税金が下がることと似た効果を持つことだ。
コロナ・ショックと自粛で低迷している消費を刺激し、経済回復の一助となりうる。しかしこの効果は一時的であるうえ、携帯電話料金分の消費がほかの消費に振り替わるにすぎず、GDPの観点からは、一時的な刺激を除けばほとんど影響はないだろう。つまり、セクター選択の問題(通信キャリアよりネット配信などのサブスク・ビジネスへ)としては重要だが、株式市場全体に対する良い面は一時的とみている。
悪い面は、「儲けること自体が悪いことだ」というシグナルを日本企業に送ることだ。携帯電話に関わる通信業者は、電波を政府に割り当てられて行うライセンス事業であり、その意味で寡占の性格を持っている。
一方、楽天の参入でも分かるように、参入しづらいとも言いにくい。テレビCMでも携帯電話契約のセールストークはおおむね「安さ」であって、需要の価格弾力性は高そう(人々が安さを好みそう)だ。複雑な事業の在り方も含めて考慮すると、菅首相が海外と価格を比較した上で高利益率を批判することは妥当なのかもしれないが、一般に「営業利益率20%は高すぎる」と言ってしまうと、ビジネスの初期段階での高い投資コストの回収や先行者利益を得るための適切な高利益率を否定する社会情勢を生み出す恐れがある。ポピュリズムに陥らず、問題を特定し、適切な政策実行を望む。
銀行再編の強化については、株式市場は基本的に“良い”と受け止めるだろう。金融危機以来、企業の銀行依存が総じて低下した一方、銀行の融資先へのアドバイス能力が低下してしまったとみられる中で、地域振興・再生の一翼を担う余力を失った銀行が固定費削減と資本強化のために合併することは、経済や株式市場にとって良い結果につながるだろう。ただし担当大臣は麻生氏が再任されており、新しい政策でこれまで以上に加速させるかはまだ分からない。
だれが首相であれ、当面はコロナ・ショック対策が政府にとって重要だ。現時点では、世界的な感染者数増加よりも、経済正常化と感染防止のバランスを取る政策に重心が移っている。拡大初期とは異なり、高齢者施設や医療機関での予防管理が進み、重篤者が減少して医療機関が対応できるようになり始めた。政府は、経済活動を止めて補助金を配り、中央銀行が銀行などにシステム安定のために資金供給するという状況から、経済活動の正常化を進めることが適切だろう。
ただし、ワクチン確保や接種の優先順位など政治的な課題は多い。感染状況を見極めながら経済再開と医療支援のバランスを取り、ワクチン確保に向けた外交なども含む対応に関し、強いリーダーシップが求められる。
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
KAMIYAMA View チーフ・ストラテジスト神山直樹が語るマーケットと投資
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