TOBでは、その時点で市場で取引されている株価に対して、金額を上乗せして買取価格を設定することが多い。この上乗せ価格をプレミアムと呼ぶが、「だいたい30%が多い。買い取りに応じる株主側も、ある程度のうまみがないと応じてくれない。金額を高くするのは、TOBをスムーズに進めたいという企業の強い意志の現れだ」(市川氏)
ドコモ株のTOBでは、発表日前日の終値2775円に40.5%のプレミアムを乗せた3900円で買い取るとした。
市場で取引されていた価格よりも高い価格で買い取ってくれるため。仮に株価が変わらなければ、2775円でドコモ株を買い、NTTに3900円で買い取ってもらえば、それだけで大きな利益となる。
「かなり高い水準で買い取ってくれるという見方から、プレミアムに近い水準まで株価が上昇する。ただし、万が一TOBが成立しなかった場合のリスクもある」(市川氏)
TOBが成立した場合、ドコモは上場廃止となり、この買収によって事業が成長するかどうかの判断は、買収する側のNTTの株価に反映される。株価の上昇は、純粋に上乗せされるプレミアムと、TOB成否の可能性で決まると考えていい。
NTTは4兆2500億円を超える買収資金を、金融機関からの借り入れでまかなう。
現金および現金同等物は20年6月時点で1兆720億円あまりであり、手持ちの現金だけでは足りない。一方、NTTの発行済株式の3分の1以上を政府が保有することが法律で定められており、増資によって資金を調達することは難しい。会見でも、NTTは株式の新規発行による資金調達は行わないとした。
NTTの19年度の業績は、当期利益で8553億円、フリーキャッシュフローは7498億円であり、4兆2500億円の借り入れは財務悪化懸念がある。これらを嫌気してNTTの株価は下がったと見られる。
TOBによって企業を買収することで、常に株価が下がるわけではない。例えば伊藤忠商事は18年から20年8月にわたって、ファミリーマートにTOBを行い、18年8月にTOBが成立し連結子会社化、さらに20年8月に新たなTOBが成立し完全子会社化した。この間、伊藤忠商事の株価は23.95%上昇している。
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