東京メトロがヨガスクールを経営する理由コロナ禍で奮闘する新規事業(1/3 ページ)

» 2020年11月10日 05時00分 公開
[今野大一ITmedia]

 「はい、おしりの骨に手を当てて腿裏(ももうら)を伸ばして―」

 10月の日曜の朝、千葉県の東西線妙典駅近くの妙典公園で25人ほどがヨガに励んでいた。秋晴れの下、東西線が通る音が響いている。屋内でのスポーツが制限される中、屋外で思い切り身体を動かすことができ、参加者は笑顔に包まれていた。

 この日レッスンをしていたフリーインストラクターのKEIKOさんは「コロナ禍なので、人が集まる場所でヨガをするのが難しくなっています。公園なども使用許可が取りづらくなっていますね。そんな中、太陽の下、伸びやかな気持ちでレッスンができると自分自身も気持ちよくレッスンができます。沈んだ気持ちでいるお客さまの心も、ヨガを通して少しでも解放してもらえればうれしいですね」とほほ笑む。

phot パークヨガでレッスンをしていたフリーインストラクターのKEIKOさん
phot パークヨガの光景
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鉄道会社がヨガスクールを経営

 皆が励んでいたのは月1回ほど妙典公園で実施されている「パークヨガ」だ。開催しているのはヨガやボルダリングなどアウトドアフィットネスを提供する施設「greener」のメンバー。実はgreenerは東京地下鉄(東京メトロ)が、フィットネス事業を手掛けるBEACH TOWN(横浜市)と協力して運営しているのだ。メトロが事業主体となり、BEACH TOWNにgreenerの運営を委託している。

 ピラティスや、ランニングプログラムなど多様なプログラムを提供していて、通い放題の月額会員だと9500円(以下、税別)。ビジター利用だと2500円ほどで、ボルダリングのフリー会員は男性1500円、女性会員1000円(登録料は別)など利用者のニーズに応じて選べるようにしている。施設内のロッカーやシャワーも会員は無料、非会員にも有料で提供していて、平日は午前9時から午後10時まで営業中だ。

phot ヨガやピラティス、ランニングプログラムなど多様なプログラムを提供している
phot 通い放題の月額会員だと9500円(以下、税別)。ビジター利用だと2500円ほど

 同施設では1日にスタジオでのヨガプログラムを5本ほど、ボルダリングやウォーキングも1本ほど実施している。入ってすぐにカフェラウンジもあり、これは会員以外にも開放した。

phot カフェラウンジの様子

新規事業を広めるのが狙い

 東京メトロは社員提案によって新規事業を広めていく社内制度「メトロのたまご」を2013年秋から始めていて、greenerは同制度によって実現した新規事業の第1弾だ。当時入社3年目だった花木麻帆さん(東京メトロ企業価値創造部に所属)がプレゼンし、現在も事業を担う。2019年4月からメトロが所有する妙典駅の高架下でgreenerを経営している。土地は同社が所有しているものだが、初期費用として建物代が掛かった。

phot ヨガやボルダリングなどアウトドアフィットネスを提供する施設「greener」

 鉄道会社である東京メトロがなぜこのような事業を営んでいるのか。パークヨガに足を運んでいた同社取締役の小坂彰洋経営企画本部副本部長に狙いを聞くと「新規事業の創出と挑戦する企業風土の醸成が主な狙いです。greenerは東西線沿線の住民の方々に溶け込める形で事業を実施していて、当社のブランド価値向上にも寄与しています」と胸を張った。

phot 東京地下鉄取締役の小坂彰洋経営企画本部副本部長(左)と、同社企業価値創造部の花木麻帆さん

 「メトロのたまご」が創設される以前も業務効率化を目的とした社内提案制度はあった。その上で、04年の民営化から約10年をへた13年秋に、鉄道事業のみならず失敗も含めたさまざまな経験やノウハウを蓄積することにより、人材を始めとする経営基盤の底上げを図ることを狙いとして創設したという。

 現在、同制度の対象者は、東京メトロ社員で、年齢や職種、役職に関する制限はない。いつでも提案を受け付けていて、都度審査をする。過去約7年間で最終審査を通過した提案は、「greener」の1件だけだ。事業以外には18年度にGood Design賞を受賞したエレベータールートの有無が分かるWebアプリ「ベビーメトロ」(2019年本サービス化)などがある。

 なぜ鉄道会社であるメトロが新規事業に取り組んでいかなければならないのか。東京地下鉄取締役の小坂氏に尋ねるとこんな答えが返ってきた。

 「コロナ禍以前から、単身世帯の増加や働き方の変革によって人々の『つながり方』が変化し、枠にとらわれないつながり方が生まれてきておりました。当社では、さまざまな目的で首都東京に集う人たちが、新たな強いつながりを持ち、持続的に発展していくことを支え、東京に活力を生み出す事業を創造していきたいと考えております」

phot エレベータールートの有無が分かるWebアプリ「ベビーメトロ」
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