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コロナで余儀なくされたオンライン化 東京五輪開会式のプランナーが仕掛ける“障がい者サーカスカンパニー”「近づけない、集めない」 時代を生き抜く、企業の知恵:(1/2 ページ)

» 2020年11月21日 17時31分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

「近づけない、集めない」 時代を生き抜く、企業の知恵:

 「人が集まる」「人に直接会う」ことで稼いできた企業が、新型コロナを契機に自社戦略の見直しを迫られている。どのようにして「脱・3密」や「非接触」を実現し、ビジネスチャンスを生み出そうとしているのか。

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 コロナ禍ではイベントもこれまでのようには開催できなくなっている。しかし、その逆境をオンラインでつながることによって乗り越え、場所を問わずに参加でき、従来よりも多くの観客にイベントを見てもらえるなど新たなビジネスの可能性を見いだそうとしているサーカスカンパニーがある。その名前は「SLOW CIRCUS PROJECT」。障害のある人とアーティストが参加する2019年に立ち上がったソーシャルサーカスカンパニーだ。

phot サーカスアニメーション「MEG-メグの世界-」のワンシーン

 本来であれば「SLOW CIRCUS PROJECT」は、11月18日から24日まで開催されている現代アートの国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」で公演するはずだった。ところが、新型コロナの感染拡大によって、リアルでのパフォーマンスを断念。その代わりに、限られた時間の中で、メンバーだけでなく世界のサーカスアーティストが出演するサーカスアニメーションをオンラインで制作した。

 撮影はコロナ対策のため、出演者を1人ずつ撮影。国内各地と海外の出演者をCGで組み合わせた。国内にいる「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバー十数人と、世界各地で活動するサーカスアーティストの競演がテクノロジーの力によって実現した。

 作品はYouTubeで公開されていて、結果的により多くの観客にパフォーマンスを見てもらえている。こうしたテクノロジーを使った制作から公開までの一連の流れは、カンパニーとしての今後の活動の方向性だけでなく、コロナ禍における新たなイベントビジネスの可能性を示している。サーカスアニメーション制作の背景を聞いた。

phot 「MEG-メグの世界-」

オンラインでの撮影・公開が、発表の場を世界に広げた

 YouTubeで11月18日から公開しているサーカスアニメーション「MEG-メグの世界-」。メグという女の子が、何となく「毎日、面白くないな」と思って過ごしているときに、飼い猫のクロに誘われて、時空を超えた旅に出る。そこで世界のサーカスアーティストたちに会って、メグが変わっていくストーリーだ。

phot メグ役を務めるサーカスアーティストのミノッチ(金井ミノ)さん
phot 黒猫のクロ。声優は「ゆい(齋藤優衣)」が務めている

 出演しているのは、ソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバー。ソーシャルサーカスとは、サーカス技術の練習や習得を通じて、協調性や問題解決能力、コミュニケーション力などを総合的に育むプログラムだ。障害の有無にかかわらず多様な人々が参加している。今回はカナダの両足義足のサーカスアーティストのエリン・ボールさんをはじめ、イタリアやチリからもサーカスアーティストが参加した。

 「SLOW CIRCUS PROJECT」は本来、11月18日から24日まで横浜市役所で開催している障害者と多様なプロフェッショナルによる現代アート国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」で、サーカスのパフォーマンスを披露するはずだった。

 ところが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、リアルでの公演を断念。代わりにコロナ対策のため国内数カ所にスタジオを置いて、メンバーによるパフォーマンスや演技を1人ずつ撮影。海外で撮影したサーカスアーティストの映像とともにCGで組み合わせることによって、アニメーションを制作した。

phot コロナ対策のため国内数カ所にスタジオを置き、パフォーマンスや演技を1人ずつ撮影。海外で撮影したサーカスアーティストの映像とともにCGで組み合わせて、アニメーションを制作した

 カメラに向かって1人で踊りや演技をするのは簡単ではない。出演した女性は「連絡をいただいてからあまり(準備をする)時間がなかったので苦労しました。1人だけというのは踊りにくい。合わせる人がいないので誰を基準にすればいいのか、難しかったですね。でも楽しかったです。皆さんにも楽しんで欲しいなと思います」と話していた。

phot チリのサーカスカンパニー「エルマノス・シルバ」の親子のメンバー。右がお父さんのエクセキエル・シルバさん、左が息子のイスマエル・シルバさん

 撮影もオンラインなら、公開もオンラインのYouTube。その場その場でしか見ることができないステージよりも、より多くの人に見てもらうことができる。さらに、字幕が自動でつくことから、海外の人たちも容易に視聴できることは思わぬ効果だった。

 演出を担当した「SLOW CIRCUS PROJECT」ディレクターの金井ケイスケ氏は、「今回参加してくれた海外のアーティストは、ソーシャルサーカスの草分け的な人ばかり。ここから世界につながれたことは大きい。このクリエイトスタイルは、これからのニュースタンダード(新たな基準)になるのではないかと思います」と手応えを語った。

phot サーカスアーティストの金井ケイスケ氏(左)。文化庁海外派遣研修員として、日本人で初めてフランス国立サーカス大へ留学。卒業後、フランス現代サーカスカンパニーを立ち上げ世界35カ国で公演(撮影=加藤甫)
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