ここで、筆者の実体験を振り返ることにする。ある時、部下が長文メールを上司に送って意見を求めてきたので、翌日上司が部下に電話をかけて説明を求めた。すると、部下から「内容は昨日送ったメールの通りです。ご覧になってませんか?」といわれて上司がカンカンに怒った場面を目の当たりにした。
他国の事例では、あまりに社内のSlackでの言動が高圧的でプロ意識に欠けているので、社長がその社員の降格を発表した。すると、その社員はこれまでの自分の功績をExcelにまとめて全社にSlackで配信してきた。これらデジタル通信の使い方が、送信ボタンを押した本人にとって何の得にもなっていないのは想像に難くない。怒っている相手は、何もあなたの仕事への姿勢や功績を疑問視しているのではない。「依頼事」をデジタル通信で行って、さも自分の仕事を果たしたと思い込んでいる身勝手さ・無神経さに腹を立てているのだ。
最後に、電話の使い方の留意点にも触れておきたい。頼み事をするために、メールやSlackを避けたいとはいえ、事前のアポもなしに突然電話をかけるのも、オムニチャネル性のデメリット(押しつけがましさ・無神経さ)と同じ理由でおすすめはできない。緊急性の度合いで最終判断すべきことだが、誰かの「スマホ」に電話をいれる以上、理想をいえば何日の何時に電話で話しましょう、と事前アポをいれておくことで相手は気分を害さないであろう。あまりに緊急事態で事前のアポとりが不可能だったとしたらどうか。その場合は、Slackなどで「急ぎでご相談したいのでお電話したいのですが大丈夫でしょうか?」と、相手に電話をかける直前にでも簡単に送信しておくとよい。相手が電話をきったあとにそれに気づいたとしても、あなたの心遣いに感謝するだろう。
筆者が運営する投資ファンドの投資先に、ジェノプランという遺伝子ベンチャーがある。消費者の唾液を採取するだけで、リスクの高い疾患や生活習慣病の遺伝的傾向を500以上の項目にわたり解析。パートナー企業を通じて適したヘルスケア商品などを提供する企業なのだが、最近、RIZAP社との協業を発表した。
そういったご縁もあり知ったことなのだが、RIZAPの瀬戸健社長は社員へのメールを夜に送るのを避けているという。いったん、自分宛てにメールを送信しておく。そして、翌朝に出社してから担当者宛てに送信するのだとか。勤務時間外に仕事の指示をメールで送るのは「悪いから」というのが理由だそうだが、筆者と類似の課題意識をお持ちになっているといえる。社員がデジタル通信で自爆せず、会社としてもリモートワークを成功させるには、トップを含む各自が受信側の立場に身を置き、ツールの活用方法とタイミングに対して意識的に配慮することが肝要だ。その「意識的な心持ち」に、社内メールで怒り狂う民たちを撲滅する鍵がある。
金武偉(キム・ムイ)
個人投資家の視点で上場企業ガバナンスについて発信中。投資家。ゴールドマン・サックス証券出身。元ニューヨーク州弁護士。マンティス・アクティビスト投資1号(株)代表。ミッション・キャピタル代表。
Twitter:@BestGovernance(ハンドルネーム:投資家ウィル)
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