東芝の“絶対に破られない”「量子暗号通信」開発責任者を直撃 市場の4分の1を取ってリーディングカンパニーへ医療、金融、政府機関の分野で実用化(2/4 ページ)

» 2020年12月09日 19時00分 公開
[中西享ITmedia]

量子コンピュータの登場で変わるセキュリティ事情

――データが盗聴されるのは、どういう場合に可能になるのか。

村井マネージャー: サイバーセキュリティには2つのことが必要だ。1つはPCやコンピュータの中にウイルスなどが侵入しないように防御すること、もう1つがわれわれの技術に関係する、データを通信しているときの通信路上で盗まれないようにすることだ。通信しているときは、データは電磁波として流れていて、これをこっそりと盗もうとする敵に備えるのが暗号技術だ。

――最近はECなどが普及してきている。その際のデータのやりとりは暗号化の技術が使われているが、この量子暗号技術だけでは防御できないということか。

村井マネージャー: ネットショッピングでやりとりされるデータは暗号化されていて、簡単には解読できない。しかし、最近は計算速度が超高速の「量子コンピュータ」の登場により、いままでは解読に千年もかかっていたものが一瞬で解読されてしまうようになると指摘されている。

 このため、量子コンピュータが登場しても解読できない暗号技術の開発ニーズが高まってきた。東芝の量子暗号技術は、どんなに計算速度が速いコンピュータが来ても解読できないことが証明されているので、理論的には絶対に破られない。この暗号技術はいつか必ずほしくなる先端技術なはずだ。あとはタイミングと、それまでに技術開発をして十分な準備をしておくことが重要になる。

佐藤上席研究員: 1994年に米国のベル研究所のピーター・ショア博士が、現在の暗号で利用されている問題は、量子コンピュータを使って計算できることを証明し、量子コンピュータの登場により、現在の暗号方式が短時間で解読される可能性が現実味を帯びるようになった。

――通信上の暗号鍵とはどのような技術なのか。

村井マネージャー: 暗号鍵は、皆さんがファイルやデータを送信する際にパスワードを送るのと同じだ。問題は、この暗号鍵をどのようにして第三者に盗聴されないように相手に送り届けるかで、これが一番大事になる。当社の技術は、この暗号鍵を共有する性能が世界最高レベルで、他社のものより優れていて、自信がある。

――どういう点で優れているのか。

村井マネージャー: 2つある。1つは一定の時間にどれだけ多くの鍵の種類を送れるかで、1秒間に何ビットという数字で表される。東芝ではすでに量子暗号を実用化しているスイスの会社よりも数十倍速い。もう1つは、量子暗号通信は性質上、光ファイバーで直接つなぐ必要があるが、その際に通信の距離が長くなると受け手が暗号鍵を受け取りにくくなってしまう。しかし、東芝の技術はこの距離の点でも他社を上回っている。

phot 量子コンピュータ時代の通信セキュリティー
phot 現在の暗号通信方式との比較

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.